Day5 蛍

 夏でもないのに蛍が飛んでいた。

 ひと呼吸ふた呼吸おくように明滅しながら、ふんわりと飛んでいく……事はなく、なぜか消えない光を放ったまま飛ぶ蛍だ。蛍たちは数十匹と集まって気ままに宵闇を泳いでいく。

 都会育ちの観光客の口からため息のようなどよめきが上がる。彼らの目にはLEDを背負った小型ドローンのイルミネーションに見えていた。

 少し前まで雨が降っていて、十分湿り気のある森の中。夜、あたり一面が静けさに包まれた時、条件の揃った蛍たちは一斉に暗い森を自らの冷光で照らす。

 吹いてくる冷気にダウンジャケットの襟元をきゅっと引き寄せる観光客たち。

「ここの蛍は気温10℃以下にならないと出てこないんですよ」

 そう言って歩き出したガイドを見失わないよう、足元に気をつけつつ早足で森の小道を歩いて行く一行。

 時は11月、場所は台湾。この島にしかいない鉅角雪螢は人間が何をしようと構わず、短い成虫期間を懸命に生きていた。



──創作メモ──

 台湾にある奮起湖では11月中旬〜12月に鉅角雪螢という冬の蛍が見られるそうです。

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