第6話四つ辻

罪も悪人も照らされているはずなのに


なぜ

・・・・・・・・

不快な風がまとわりつく


白銀の月を浴びる四つ辻

目線の先にグレーのスウェット


不意に、「婦女暴行」というワードが思い出される

私、婦女っていうほど女らしくない。

けど、そういう主観も世の中には関係ない時だってある


背後をとられたのがまずかった


歩み寄ってくる、見知らぬ人

目の前に来て一言


「あの、これ落としましたよ」

やや、低めの一度聴いたら忘れそうな声

目深にかぶったフード


手には

うす黄緑色の生地に水仙の花をあしらった上品な

ガーゼのハンカチ


あ、

ここに有るはずのない物

<偽物だ>

「どうして、これを」

相手の顔を見ようと

顔をあげた


今思えば、本当に無防備で笑えてくる


右に強い衝撃を受けた


ビンタよりも痛いおかげで一瞬何が起きたか分からなかった


水仙のハンカチで、包んだ拳で、


体が浮いて、地面に倒れ込む

打ち付けた顔


アスファルトの冷たさが

痛む頬にみる


何がいけなかったのか

私は、殴られるようなことをしたのか

覚えはない。


灰色の人モドキ

荒い呼吸、獣のような残酷さ


見下ろされている、不快感、苛立ち

打った頭は正常に機能してくれない

クソが。


シミの様な恐怖


恐怖に負けることなどあってはならない

尊厳を侵されることなど許されない


軟体動物の動きで顔をのぞかれる

爪で顔面ひっかいてやった

どこかの肉の抉れる

不快感

やっと起き上がれた時

目の前には

言葉にならない声をあげて

芋虫のように丸まり、体をゆすって

血と涙で顔をにじませている

グレーの塊がいた


鈍痛に苛まれた頭を抱え

立ち上がり、駅への道を走る


間に合うといいけど


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