トオル その2
彼に色々と訊かれた。
名前、齢、性別、ここに来るまで何処でどうしていたのか、親兄弟の名前、知っていることを洗いざらい。
それから身体のサイズや形状などを記録された。手形も取られた。粘土で歯形まで取られた。
最後に別室に一人一人呼ばれて、何かの草の汁を飲まされて、ぼおっとして、それから印象的な輝く幻を見ていた気がするが、その間に秘密の尋問を受けていたらしい。
その後に覚醒の為の別の草汁を飲まされたらしい。少なくともトールはそう説明していた。
襲われて逃げ出してきた村でも、冬至の祭の夜に、村の近くの森で暮らす長老──ドルイドと呼ばれていた──のところに連れていかれて、似たような目に遭った事があるので、またかと思った。その時には覚醒の為の汁は貰えず、年長の子に起こされて、気が付いたら翌朝で、もう初日の出直前だった。
こうして各自の個人情報がしっかりと調査されたわけだが、五人分の手続きが済むまでに、かなりの時間がかかった。
--
まだ少し気分がぼーっとしているが、トオルは皆が覚醒したと判断したようで、
「それじゃあ、いいかな? 君たち、こっちを見てくれ」
と、トオルは机の脇に置かれた台に手を伸ばすと、そこから幾つかの品物をとりあげて、机の上にゆっくり、丁寧に、並べた。
「これが君らの割当てだ。遠慮なく取ってくれ」
手ぶりでどうぞと示している。
ぼくたちは顔を見合わせて、座り込んでいた壁際から、にじり寄るように近寄りながら、一つ一つ確認する。
一つは手提げ籠。
乾物のキノコと干し肉と堅パンなど、幾ばくかの食べ物が、中に容れられている。
恐らくは今日一日をどうにか凌げるかどうかという程度の量。
容器は細い蔓で編まれ、小さな手桶程度の大きさの粗末な代物。
洒落たピクニック用の蓋つきバスケットなどではない。
人数分の、蔓で編まれた粗末な草鞋。
黒っぽい灰色の粗末な短いズボンが一人一本ずつ。
黒っぽい灰色の玄武岩でできている、粗く研がれた斧頭が一つ。
同じ玄武岩の、掌に収まるくらい小さな、切れ味良さげな
そして綺麗な赤みを帯びた色のかねで作ってある、お金。
その容れ物の小さな小さな薄い皮の袋。
きっと鼠の皮だろう。
子鼠のかもしれない。
一応は細い革紐が付いているから、腰帯に結わえることもできる。
「食糧と、着るものと、道具と、カネだ」
銅貨が10枚。
生まれ育った開拓村に居た頃、お母さんが、「町では小さなパン一つにも銅貨2枚かかるんだよ」と、言っていたのを思い出す。
つまり、このお金があれば、五人が小さなパンを一個ずつ食べることも出来るんだ。
おかねには銀貨もあるけど、銀貨はたった一枚が、銅貨百枚と取り替えられるので、今まで触った事もない。
お父さんは「銀貨は『大人のおかね』だ、お前たちが持っていていいものじゃない」と言っていた。
実際にそう云われて、拾った銀貨を見せびらかしていて取り上げられた友達の……。
それよりも、だ。
トオルが説明をしてくれているので、ぼくも聞かなくちゃ。
「……腐ったりしにくい品物を買って、あとで君らが必要な物と、物々交換すると良い」
トモコが
「上等な布とか……?」
「布も良い。だが、汚れるし嵩張る。君らのように品物をきれいにとっておく場所もないと、布はまずいかもしれないな」
品質を保ちやすい品物といえば、やはり宝石の類が最も便利。
貴石なら大体四桁の値、それより劣った宝石なら大体三桁、物によっては銀貨数十枚程度の値しかつかない物もあるので、騙されないようにとのことだった。
あと、宝石だけでなく、貯めた銀貨を金貨と取り替えてくれる者も居るかもしれない、と。交換比率は当然100:1。
「あと、君らは銅貨何枚、銀貨何枚としか知らないのかもしれないが、ここでは銀貨一枚の価値を『スタッグ』と言ってる。銀貨一枚なら1スタッグだ」
「あ、私は知ってますから……」
「うん、じゃあ、あとは、このサカヌキ村の掟だけでも教えておくか……」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます