第485話 気が向いたら ☕
ある本の一節から苦い記憶が引き出されました。フリーになった直後、知らないひとたちからの頻繁な電話に悩まされた一期間があります。いまはアドレス帳に登録していない番号には出ませんが、当時は、前の仕事に関する重要な用事かもしれないと思わざるを得なかったので。それにしても個人の番号をなぜあなたが知っているの?
そのうちのひとりに確認してわかりました。仕事時代に取材に来たジャーナリスト(それも管理職)がヨウコさんに無断で同僚の記者たちに大盤振る舞いで教えていたのです。誇り高い彼ら彼女らがリードすると自負する、その一般社会でもこんな非常識はあり得ません。個人情報をなんと心得る?! あらためて怒りで熱くなりました。
冷めた珈琲を口にふくんだところへ、前の席のぼそぼそ話が聞こえて来ました。「どうだ、そろそろ知り合いの店でバイトしてみないか」「……ま、気が向いたらね」「ふむ。で、いつ気が向く?」「……」あとは緘黙。初老の格闘家の問いに撫で肩の若者はスマホの目を上げようともしません。やれやれ、生きるとは厄介なものです。
🥋👓 🥋👓 🥋👓 🥋👓
※時間を少し巻きもどします。「いらっしゃいませ。お客さま、お連れさまはいらっしゃいますか?」「え? わたし、いつだってひとりだけど」「あ、す、すみません」_(._.)_ 新人女性スタッフさんの初々しさに頬がゆるみました。ところで、ファストフード店で使わなかったマドラー、文庫の栞にちょうどいいこと、新たな発見です。
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