第429話 幻想の石畳 🌆



 これも数年前のこと。高速道路のインターを降りるとき考え事をしていたらしく、いつもの一般道を見知らぬ風景が流れていました。でも、西方の低い山並みを越せば自宅のある市に至るはず。方向は誤っていないので、そのまま車を走らせていると、ん? 江戸の宿場町を復元したような石畳の一画へ。軒先の大提灯が瞬いています。


 まあ、なんと日の暮れの早いこと。残暑を疎んでいるうちに季節はもう秋に入っていたんだね~。のんきなことを思いながらゆっくり走っていると、あらら、どんどんおかしな方向に坂を下って行きます。いまにも格子戸が開いて、おきゃんな看板娘が愛想のいい笑顔を覗かせそう。いや、待って、もしや狐の娘? あやかしの巷……。


 ええい、それならそれで騙されてやろうじゃないの。先を急いでも、だれかが家に待っているわけでもなし、ちょこっと近世へお邪魔しても、それはそれでミニ旅行の締めとしてわるくないよね。そんなことを考えているうちに底に達した石畳が上りになり、つぎの瞬間、ライトをつけ始めた車輛が行き交う国道へ出ていました。コン。




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