第367話 熊野古道 ⛰️



 パワーヨガの一環としてダウンドッグのポーズに移る前の腕立て伏せの沈み加減がいい感じになって来たな、ずっと苦手だったけど、やはり年季って大事なんだな~。そんなことを考えながら背中を伸ばしているとき「ゴキジョさん」という耳慣れない発音が飛びこんで来ました。顔だけ上げてみると「五鬼助さん」のテロップが……。


 あら、珍しい、ここまで鬼に所縁の苗字って初めて拝見するわ~と思っていると、熊野古道の宿坊を営む家と知って、ああ、と納得です。仕事時代の資料から、あの世界では鬼はむしろ神に近い存在と承知していたからで、先祖代々、鬼を名乗って来た一族に敬意と親しみを覚えました。調べてみると概要つぎのような由来のようです。



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 いまから約千三百年前、熊野の山に前鬼ぜんき後鬼ごきという鬼の夫婦が住んでいました。夫婦は日夜きびしい修行を積む役行者えんのぎょうじゃのすがたに心を打たれ、いつしか修行に同行するようになりました。やがて夫婦に生まれた子どもが五人になると、役行者は「おまえたちはここまで修行したのだから、もう鬼ではない。里におりて、人間として生活しなさい」と言い、前鬼には義覚ぎかく、後鬼には義賢ぎけんという名前を授けてくれました。


 その一家が暮らし始めたのが下北山村前鬼という場所で「この山で修行する人たちを守り導きなさい」という役行者の教えに従い、五鬼熊・五鬼童・五鬼上・五鬼継・五鬼助の五人の子は行者坊・不動坊・中ノ坊・森本坊・小仲坊の宿坊を建て、代々が天上界と地上界を結ぶ役目につとめて来ました。時代が移ったいまは小仲坊だけになっていますが、電気もガスも通っていない宿坊は登山者の拠り所にもなっています。



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 かねて、中世の仏教者・一遍上人の妻・超一坊の生涯を追う『あいあふときも――捨聖の妻  🍃』を執筆して以来の憧れの地であり、個性的な生物・民俗学者:南方熊楠の記念館もある熊野古道はいまも未見のまま。いつかは五鬼助さんの宿坊もお訪ねできたらいいな……梅雨の晴れ間の朝のひととき、つらつらと思いを馳せました。




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