第309話 モンペの下の花柄ワンピース 🌼
ひょんなことから拝読するようになったノンフィクション作家・梯久美子さんの淡々と過不足なく簡潔で、それでいて万物への情愛に満ちた文章に惹かれています。
取材で出会ったひとたちの逸話を寄せたエッセイ集の一節に、広島の原爆記念館に保存されている花柄ブラウスやワンピースの遺品に言及するくだりがありました。
母親や祖母が愛情をこめて丁寧に縫ったものと思われるそれらは、太平洋戦時下の銃後でモンペの着用を強制された少女たちがこっそり内に身に着けていたもの……。
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つぎなる章は沖縄のひめゆり学徒隊の逸話で、なにも知らず戦場に連れて行かれた少女たちのさいごの場所となった壕から縁の欠けた一石の硯が見つかったそうです。
引率の教師から、日記や本、櫛などわずかな私物の携行しか許されなかったとき、ある少女は動員先でも大好きな書道を稽古するつもりで硯を選んだのでしょうか。
ただ、いまも供花物が絶えない「ひめゆりの塔」に比して「ずゐせんの塔」などが顧みられないのは、引率教師もいない少人数の隊だったからという現実もあり……。
今年もまた暑い夏がやって来ようとしています。
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