第298話 満開の花桃&よちよち老犬 🌺
堪えていた生命がいちどきに噴き出したような百花繚乱のなかでも際立って美しいのは、可憐な白と紅とが一木に咲く花桃だね、ヨウコさんは何度も見惚れるのです。とりわけ見事なのは散歩コースの角の家のそれで、見るからに手入れの行き届いた樹木の枝が水平にひろがり、無数の造花のような白と紅とがこんもりと盛り上がって。
ほうっと息を吞み、振り返り振り返りしながら通り過ぎると、その横の家の庭には動くのも大儀そうな老犬がいます。茶色い雑種の中型犬で、数年前にはエリザベスを付けられリビングに入れられているときがありましたが、術後も快復して、また外飼いにもどったみたい。日当たりのいい犬小屋は毛布でぐるぐる巻きにされています。
寒い季節も外で過ごさせる精いっぱいの思いやりのようですが、目も耳も不自由になっているらしいお年寄り犬が零下十度の庭で過ごした夜や朝のことを推察すると、可愛がっているのか虐待しているのか分からない、複雑な気持ちに駆られます。せめて冬のあいだだけでも家に入れてあげてください、言ってあげられなくてごめんね。
🐶
いま読んでいる本の底知れない暗さ、やりきれなさに日常の隅々まで感化されるのはいつものことです。文化が未成熟な時代のこととはいえど、立場の弱い主人公へのあまりにも酷すぎる周囲の仕打ちが、よそのお宅の長老犬の身の上に重なるのです。人は自分中心の言い訳を前面に押し出しがちですが、客観的に見て否はあきらか。
うっかりそんな本を買ってしまった迂闊を悔いながらも、やはり思うのです、そうでなくてさえ苦しみと無縁でいられない人界なのに、なぜ敢えてここまで救いのない文章を活字にしなければならなかったの? 知らずに読まされる身になってみてよ。読者に感銘をもたらしてこその文芸。書評する側もきちんと提示して欲しいのです。
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