第299話 おとなりの女性のつぶやき 👩
二月の寒い時期から薄紅の花を咲かせてくれていた沈丁花、そろそろ盛りが過ぎるようなので、思いきって生涯初めての剪定を試みてみることに。植えたままにしておいたのは「剪定をきらう」というデリケートな特性を慮ってのことですが、今年は枝があまりに混み合って来て、となりのソヨゴや紅葉のエリアまで進出し始めたので。
こんなに伐っても大丈夫かな? 来春、花が咲かなかったらどうしよう。びくびくしながら素人剪定に集中していると「こんにちは。いいお天気ですね」思いがけないところから声をかけられました。老夫婦が相次いで他界して空き家になっている隣家のひとりむすめさん。車で三十分ほどの郊外の農家に嫁いで(古い(^^;)いるはず。
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もっと頻繁に来なければいけないんですけど、放っておいてごめんなさい。ご迷惑をおかけしていませんか?/いいえ、なにも。外の仕事も忙しいんでしょう/はい。でも、来ようと思えば来れるんですけど、だれもいないから張り合いがなくて/無理ないよ、何事も楽しみとか目標がなくちゃねえ/分かってくださってうれしいです。
気楽なひとり暮らしとちがって、家族の世話も大変だよね~/夫が七時ごろ帰って来て息子は十時ごろで、夕飯を二回用意しなきゃいけないのがちょっと/うわわ、それは疲れるよね~。え、駅までの送迎もするの? なおさら大変だわ。ストレス疲労の蓄積が相当でしょう?/お話できてよかった~、だれも分かってくれないんで。
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初夏めいた陽光が燦々と降り注ぐなか、フェンスを挟んでの立話でしたが、なんだかとても厳粛な気持ちに駆られたヨウコさんです。ひとつは相続した空き家の始末の問題。もうひとつは当事者にしか分からない家庭内の無償労働の問題。ことに後者は主婦(こういう表現が適当かどうか)なんだから家族の世話は当然とされていて。
こまかく時間を区切られての食事の世話や車での送迎が日常化した暮らしは、してもらう側には理解できないであろう粘着質の疲労を心身の深部に降り積もらせます。そのあたりのこと、家庭や地域のなかでさわやかに話し合える社会になればいいな、わたしたちの世代をさいごとして、人間が平等に尊重される社会になって欲しいな。
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