第296話 いつもと違うように見えたのは 🏙️ 



 いつもの席に座ったところへ馴染みのスタッフさんが水を運んで来てくれたので「ボックス席のあたり、模様替えしたの?」思ったままを口にすると、一瞬、呆気にとられた顔を堅くして「いいえ、どこも変えていないですけど」心なし眉をひそめる気配だったので「やだ、わたしったら、ごめんね」慌てて言い添えましたが……。


 ミドル世代のスタッフさんの脳裡をよぎったものが見えるような気がしたのです。長年、同じお店に通っていると、いつの間にかすがたが見えなくなる常連さんがときどきいます。大方は加齢症状で施設に入ったとか認知症が進んだらしいとかいう話。ヨウコさんも後者に該当し始めたのではないかと思われたのでしょうね、きっと。



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 いえね、その前の週、数脚の椅子が見えないので店長さんに訊くと、少しでも軋むものは修理に出すよう本部から指示があったとのこと。悪質クレーマーに騒がれる前に先手をということらしく「サービス業も大変だね~」と言い合ったのですが、その印象が強かったせいか、今週も店内の風景が微妙に違うような気がしたのです。


 心なし青ざめたスタッフさんがそそくさと立ち去ると、え、もしや、わたし、本当にその兆候だったりするの? いつだれが罹患しても不思議はないんだし、のちに「この朝の小さな出来事が発端でした」となったらどうしようと不安になりました。テレビの特集でも迷子のままの患者がおよそ二万人いると報じていましたし……。


 三歳の幼女にもどった自分が知らない街角とか森とかで、え~んと泣いている場面が見えて来ます。一説に絵筆を操る画家は認知症になりにくいと聞きますが、ネット小説で日々文章を書いている場合は、それに該当しないのでしょうか。昨今の深刻な社会問題は単独世帯の行方不明者とか。気をつけようがないのがやるせないです。




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