第278話 倉庫の錆びたトタン屋根 🏡
ごうごうと吹き渡る風の音が右耳を押しつけている枕にひびいて来る。数十年来の難聴が加速した左耳はますます心細くなっているが、ま、それはそれで。あからさまに聴こえるばかりがいいわけではない、聴かずに済むなら、むしろ、いいかも……。
夜空の高みを東へ奔る大陸の埃は黄土色の帯を成しているだろう。この星に住まわせてもらっている以上、自然現象は甘んじて受け入れるが、ちゃっかりついて来そうなものだけは困る。総じて嵩張る南瓜みたいな三つの顔の片鱗、断固、拒否します。
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薄目を開けて暗闇の机にうずくまるパソコンを見ていたら、ふっとおかしなことを思い出した。ノンフィクションで一家を成した辺見じゅんさんが三十代半ばではじめて小説を書いたとき、父親の角川源義さんから辛口で情愛深いアドバイスを受けた。
「この程度のものならだれでも書ける。もっと人生を学んでからにしなさい」以来、創作は一編も書かなかったという。いたっ!! といまさらに。拙作を含め小説もどきが氾濫する現代のネット界を、角川書店の創業者はどうご覧になっているだろうか。
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風の音に誘われ、思いは変転する。寝がけにふと気になった倉庫の屋根、あれ、どうしよう。トタン屋根の耐用年数をはるかに超えているから赤錆だらけだろうね。無駄な費用はかけたくないけど、かといって子ども世代に迷惑を先送り出来ないしね。
小さな事業を始めたとき、自宅の敷地の奥に建てたが、何度かの移転ごとに存在が稀薄になっていった。閉業時の在庫や経理書類をおさめたままで、年に二度のタイヤ交換時にシャッターを開けるだけの現状……。週明け、工務店に相談してみようか。
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