第280話 夜っぴて走る大晦日の電車 🚊



 生涯を独身で通した詩人・石垣りんさんが、その腕で養わなければならない五人の家族から距離をとるために購入したのが、三階の部屋のすぐ前を私鉄が走る1DK。


 さぞやうるさいでしょうと訊かれ、いいえ、わたしにはちょうどいいのと答えた。煩わしい家族とはなれると人恋しさが募り、窓に映る乗客の影すら慕わしくなった。


 とりわけ、ひと晩じゅう電車が走る大晦日は、ひとりの年越しがさびしくなくなるからうれしいのよ。そう述懐する気持ち、痛いほどよ~くわかるわ~とヨウコさん。




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