第261話 風土という禍々しきもの 👻



 講演で九州に行ったとき、時間がなくて寄れなかった臼杵の石仏の話をタクシー運転手さんと交わした。「無数の寺社がありまして、地図を手に捜し歩くと丈数十センチの童子の仏に出逢ったりします」「まあ、すてき。☆◇路にも石仏が多いですよ」「存じています……でも、山も風土も荒々しくて自分には溶けこめませんでした」


 そんな記述に出会ったとき、馬の背で峠越えした婚家の風土に馴染めず、夫とともに出郷して東京に新天地を拓いた仙台出身の気骨の明治女性の流転の生涯がよみがえりました。昨年暮れに書き上げ、パソコン内の酵母室で発酵のときを待っている拙作の主人公にもまた、前掲の先駆的女性の歩んだ時代背景と重なる部分が多いのです。



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 たぶん診察のたびに突拍子もないことを(笑)話していたのでしょう、鹿児島出身の精神科医が「あなたのような考え方のひとは日本より外国の文化圏の方が向いていると思いますよ」苦笑まじりに呆れてくださいましたが、当の本人はさほど苦痛とも思わず、閉鎖的な風土が気持ちの障りになることはないだろうと楽観していました。


 それが、ちょっと待って、わたし、無理かも~と初めて思ったのは、数年前「地域の清掃活動の出不足金を一回につき二千円徴収」存在自体がハラスメントみたいな(笑)頑迷老人から鶴のひと声がかかったときでした。十数戸の隣組連がいっせいに目を伏せるなかのヨウコさんの異論は「他地区にも例あり」として即却下され……。



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 そのときは引き下がりましたが、しばらくして、もっと理不尽な命令がくだされた(笑)ので、事後の冷視線は覚悟のうえで「はい? コロナ前と後では、紀元前と後ぐらいの差があってしかるべきです。変わろうとする社会を無理やり後退させるような時代錯誤はどういうものでしょう」と発言してヒンシュクを買いました。( ^)o(^ )


 で、あらためて思ったのです、高い山に囲まれた地域と海に開けた地域では気質に差が出るかもね……。でも、縁あって同じ地に住む同士、他者のアラ探しばかりに目を尖らせるのでなく、互いに弱い人間として援け合い労わり合う方向にベクトルを持って行かれないのかな~。ふ~う、今年も秋までに五回の地域清掃があります。(^^;



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 そういえば、十年余り前、都会からの移住者宅へ連日のように押しかけて、けんかじみた荒い言葉&表情で郷に入りては郷に入れと言いつづけて若いご夫婦のメンタルを追い詰めたのもあの老人一派でした。その件はなんとか収まりましたが、旧態を改める意識を持てないなら早めにお引き取り願う方が世のため人のためかと。(*^。^*)


 などと思って眠れない夜にテレビをつけたらアンリ・マティスの特集番組でした。生地の北フランスの風土が体質に合わなかったマティスは、のちに南フランスに移住してからすばらしくカラフルな『帽子の女』ほかの作品を描いて「色彩の魔術師」と呼ばれるように……ということは、閉鎖的な気質からの脱出は移住しかないのかな。




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