第220話 連理の泰山木&小さなお店 🏡



 風は冷たかったのですが、きれいなブルーに掃き清められた好天に誘い出されて、ご近所散歩に出かけてみました。一時は歩きにくかったモートン病もグーパー運動&補助具の効果があったらしく、ゆっくりペースなら三十分は大丈夫になりました。踵がぺたんこのスニーカーより少しヒールのあるブーツの方が足にはいいみたいです。


 コンビニの信号を渡ってラーメン店の前に抜け、合同庁舎やマンション、ビジネスホテルが集合するあたりに到達しますと、オープンガーデンの案内がある数寄屋造りのお屋敷に至ります。ど~れ、今日のランチメニューはどうかな? 袱紗寿司・長芋蕎麦・若布とエノキのお吸い物・杏ペーストのヨーグルト。うわ~、美味しそう!!


 ひとまず家へ帰り、独り客が迷惑にならない午後一時過ぎに車で出直しますと、いつものカウンター席へ案内されました。といっても粗雑な扱いを受けたわけではなく西方の壁一面を占めるガラス窓から見事な泰山木を間近にできる特等席なのです。わあ、この感じ、久しぶり、いつの間にか冬が過ぎ春がやって来るよね、泰山木さん。


 

      🌳


 

 根もとから二本の太い幹が寄り添い合っている常緑樹は、縦横無尽に這わせた走り根をしっかりと地中に差し入れ、みっしりと隙き間なく茂った肉厚の葉っぱを二月の太陽にてらてらと光らせ、すぐそこに控える浅春に向けての蠢動を開始しているようです。心地よさげな日かげには八手や躑躅、蕗が、守るように守られるように……。


 その力強さに魅入られながら、数年前の早春、抽選に当たって出かけた角川武蔵野ミュージアムを思い出しました。角川源義さん邸から館の前庭に移植された泰山木、しっかり根づいているだろうか~。あのころの閉塞状況が緩和されたいまは、芯からほがらかな気持ちでミニ旅を満喫できるはず、今度は家族と再訪してみようかな~。



      🍱



 申し遅れましたが、ひと月早い雛祭りのような袱紗寿司、ふんわりしたうすやき卵に上等なイクラのトッピング、紫米にヒジキと椎茸のうま煮が隠されたそれはもう絶品でした。ほかのメニューも目と舌と胃とお財布に(笑)やさしくて、つぎはあまりあいだを開けずに来ようねと自分に約束して、隠れ処ふうの小店をあとにしました。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る