第221話 文学はコンピューターか 🧭
仕事柄、袖振り合うも他生の縁めいていながら、結局は振り合わなかった方々が何人か……。そのひとりが水上勉さんで、某文学全集の編集作業で何度か手紙の交流があった作家から、とつぜん、いまから御社を訪問したいと電話がかかって来たときは驚いて、ケーキを買って来るやらおしぼりを用意するやらと事務所中大騒ぎでした。
満を持してお待ちしていましたが、小一時間ほどして再度電話があり、国道の渋滞で飛行機の時間に間に合わないからつぎの機会にすると告げられて気が抜けました。その機会がやって来ないうちに老作家の訃報を聞くことになり、移動中のあの電話は夢のなかの出来事だったのではないかと自分の耳を疑いたくなったりもしました。
🛫
それから長い歳月を経て、沢田研二さん主演の映画『土を喰う日々』を拝観したとき、あの電話の一件は、こういう静かな日々のひとコマだったのかと得心しました。それからさらに時間を経た先日、ある本で、かつての直木賞選考会で水上勉さんが「文学はコンピューターか?!」と大胆な発言を行ったという記述に遭遇しました。
選考委員の多数決で受賞作を決めてしまっていいのか、推しの温度差は考慮に入れられないのかと文壇の大御所にモノ申したとか。四半世紀も前にコンピューターという単語を使われたこともふくめ、すごい、天晴れ!! と唸りました。地方文学賞には比すべくもありませんが、あの密室のなんとも言えず重い雰囲気によくぞまあ……。
ご子息の窪島誠一郎さんの「戦没画学生慰霊美術館・無言館」からの寄附要請(いまでいうクラウドファンディング)にお応えできないままヨウコさん自身も事業を閉じることになりました。その残念な事実もふくめ、写真でしかお目にかかれなかった老作家の端整な面立ちに、なんとはなしの縁を感じさせていただいております。(^^;
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