第117話 月冴ゆ 🌔
十月尽の武蔵野はからりと晴れ渡り、清潔に整えられた街には光の粒が降り注ぎ、天を競い合う高層ビル群、いにしえから伝わるみずみずしい樹木群、行き交う車列や老若男女、道路工事現場までがキラキラと輝いていて、この美しい地域に住まわせていただいている三人家族の小さな幸せがとても愛おしいのです。°˖✧◝(⁰▿⁰)◜✧˖°
交通の都合で迎えに来てくれた車窓に鬱蒼と茂る巨大な古木群を発見し、もしや? 胸を躍らせると、やはり兎を祀る
🏙️
充実の小半日を過ごした帰路の特急の同行二人は、この世のものとも思えないほど冴え冴えと光り輝く満月でした。目の高さより少し上の中空にぽっかり浮かんで並走してくれ、トンネルに入ると消え、抜けると、また浮かんで……かくれんぼみたい。
――思えば、月はずっと味方でいてくれたよね~。ヾ(@⌒ー⌒@)ノ
唐突に思ったのは深夜の北陸道の月の記憶が呼びもどされたからです。あのころ、県をまたぐ出張でも日帰りだったのは暗い家に幼い姉妹を待たせていたからですが、眠気に負けないようにガムを噛んだりラジオやCDを聴いたりしながらひたすらアクセルを踏みつづける身を、車窓に伴走する満月が全力応援してくれていましたっけ。
🚗
今宵の月に感謝しながら、思いはいつしか生き方への問いかけに移っていきます。いま読んでいる本は明治・大正期を先駆けたある女性の生涯をこなれた文章で紡いだ長編小説ですが、理路整然とした偉人伝と異なり全編が矛盾と葛藤に満ちています。
その生き方に毀誉褒貶があることも承知しており、ヨウコさん自身、主人公の事跡といわれるものに疑問を抱いていたのですが、巧みなペンに導かれて読み進むうち、いや、そうじゃないと思うようになりました。惑いのない人生なんて味気ないよね。
🍫
定規で引いたようにゆらぎのない人生がもし本当にあるとすれば、アナログな人間のありようとしてむしろ不気味。挫折し、立ち止まり、彷徨う……蛍のように不定形な軌跡が人生なのであり、その過程で綯われる心の縄の太さこそが尊いのですよね。
ね、そうだよね~。いつの間にか少し上空に移動した車窓の月に語りかけました。
そして……むかしとちがって静かな声で呼びかけながら通路をやって来た車内販売にチョコレートがないことを知って、猛烈に食べたくなったヨウコさんです。(笑)
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