第105話 高原都市の秋の日に 🏙️
ただディーラーのゲストルームで本を読んで待機しているだけなのに、半年ごとの車の法定点検、どうしてあんなに疲れるのかいつも不思議に思っているヨウコさん。つい春先に見てもらったばかりという感覚なのに、容赦なく時間は流れまして……。
コロナの渦中では稼働を停止していたドリンクバーも復活し、新聞や雑誌も元通りに閲覧でき、玩具いっぱいのキッズコーナーはうららかな秋の日に照らされ、なにもかも日常にもどっていますが、なんとなくどこか違う、もう以前には還れない感じ。
なんだろうねえ、広い店内を見まわすと、いままで気づかなかった社是が目に入りました。曰く「みんなの幸せは、ひとりのささやかな幸せから」今日だれかの笑顔をいただけましたか? という接客の心構えですが、時節柄か胸に沁みまして。('ω')
🍔
そういえばヨウコさんの会社でも社是を掲げていました。シンガーソングライターのスタッフに社歌も作って欲しかったのですが、その余裕がないまま閉業しました。さらにそういえばですが、ある日とつぜん事業を承継した有名人たちがさらに問題を深刻化させている状況、あれは選ぶ方が間違っているかと。ひとつことのみに長けた職人が広く浅いオールマイティの知見が必要な経営職を即こなせるはずがないので。
つらつら考えているところへ仕事時代から十数年のおつきあいの営業スタッフさんがやって来て、双方、半年ぶりの再会に感謝しながらいつものよもやま話。大学新卒の熱心な読書青年だった彼も父親になったいまは本からめっきり遠ざかったようで、少しさびしいはさびしいですが、それもまた人生のプロセスなので……。( *´艸`)
⛳
来月下中のタイヤ交換日時を予約し、「お客さま、お帰りで~す」の朗らかな声に送られて、生涯大切に乗るつもりの軽自動車を発進させると、やはりどっとばかりに疲れが出ました。帰路、国道端のモスバーガーに立ち寄ったのは仕事時代のランチを思い出したからですが、ここには小さな地方都市ならではの偶然が待っていました。
地物レタス&トマトたっぷりのセットを味わって出口へ向かうと、いましも入って来たのは見覚えのある相貌。騙し取材を受けた地方紙に品のない囲み記事を書かれた直後、ある会で挨拶したら露骨にぷいと顎をしゃくられたその……。(´;ω;`)ウゥゥ
おかげさまで(笑)あれから根性が据わったヨウコさんの「あ~ら、お久しぶり」に慌てて伏せられた美形に広がる茶の老残は、資産家の夫とともにゴルフ三昧だった社長夫人の半生のまぎれもない証しであり、日に当たる余裕もなく朝から晩まで屋内で働きづめだったヨウコさんは、ポジティブな啓示のように神の公平を見たのです。
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