第74話 なごり 🦗



東側の窓のカーテンを開けると、日の出を控えた淡い曙色の空に雲がだんだらに。

隣家のアンテナのうえに帰りそびれた星がひとつ、戸惑ったように潤んでいます。


いくつもの電線を一手に束ねる電柱は生まれついての緘黙を厳然と貫いています。

昨夜の雨に濡れた狭庭にひそむ虫たちは、ここを先途と、のどを競い合って……。



――曙の星の別れや虫集く 🌟



あと何年同じ景を見られるのかしら……なんて野暮は口にしないのが粋というもの。

浮き世を司る神は人生のゴールをだれにも明かさずにおきたいらしいので、ならば。


それに限りのない現世なんて勘弁して欲しいです、限りがあるから堪えられるので。

さて本日もポジティブシンキングとまいりますか、仕合せは案外足もとにあるかも。




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