第33話  駕籠に乗るひと 👻




「なんて阿呆なをとこなんだろう。あんた、まちがひなく地獄行きやで~。あんたが行かなかつたら、他のたれにも行く資格ないんやから、をんな連れて必ず行きや!!」


 ヨウコさんは心のなかで吠えまくります。かういうときの癖で、旧仮名やら関西弁もどきやらごつた混ぜにして、本を読むフリの(笑)胸中に嵐を吹かせまくります。


「箱根山、駕籠に乗る人、担ぐ人、そのまた草鞋を作る人、捨てた草鞋を拾ふ人」

古典落語発祥の諺、エライ自分は当たり前に駕籠に乗るつもりでいるやろ、あんた。


 だけど、おあいにくさま、この娑婆は輪廻転生が倣ひなんだ、つぎの世では捨てた草鞋を拾つてるよ、きつと、その真つ赤に爪を染めたしやがれ声の連れとともにね。




      📱




 なぜこんなにヨウコさんが怒っているかというと、真夏の朝の静かなファミレスにとつぜん響きわたったのです、スマホの呼び出し音&相手の応答&こちらのダミ声。


 ちょっとお訊ねしますが、ここはおたくの会社の分室かなにかですか? わたしらほかの客は、肩身狭く居させてもらっている居候? ゆえにスピーカーにしてるの?


 うっかり訊きに出向きそうになったくらいの傍若無人ぶりでしたが、百キロはありそうな巨体とドスの効いた声を恐れてか、店長さんもスタッフもなにも言いません。


 ちょうど某紙の投稿欄で飲食業でアルバイトをしている女子大生の嘆き(高齢者のマナー違反)を読んだばかりでしたので、同世代の恥に居たたまれないヨウコさん。




      🍱




 素気ないほどの無宗教で、来世とか輪廻転生とか信じたこともありませんが、このときばかりは「とっとと駕籠から放り出されて地獄へお行き!!」本気で願いました。


 いるんですよね~、いまだに昭和の匂いをぷんぷんさせた地場産業のオヤジ社長。

 ばっかじゃないの?! 事務員さんへの指示をファミレス中に響き渡らせるなんて。


 いや、バカだけど、バカに決まっているけど(笑)かつては同じ立場だったので、社長病の末期症状を突きつけられているようで、せっかくの和定食の味がせず……。


 なんともはやな朝になりましたが、まあ、ヨウコさんが立ち上がっていやな思いをしたところで蛙の面に云々でしょうから、じっと堪えていたお粗末の一席。((+_+))




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