第29話 カルチエ・ラタン 🗼
この手の人たちは、どうしてこう似通った口調で似たようなことを言うのだろう。
講演会のあとの関係者のパーティーで思う……絶対的な自信があるからだろうね。
関連する放送局主催の恒例行事、その年の講師は現代地方医療の中心人物だった。
著書多数、メディアに引っ張りだこの有名人なので、六百人の会場は予約で満席。
一応、招待の範疇に入るヨウコさんには前から六列目の来賓席が用意されていた。
この位置だと、まばゆいライトを浴びた壇上の演者と対面するような感じになる。
圧倒的な多勢に無勢だし、話す側と聴く側では緊張感が異なる、そう思っていた。
で、いかなる場合もだれかに心酔することがない質がうっかり滲み出たのだろう。
――きみ~、冷めた目で聴いていたねえ。((((oノ´3`)ノ
ワイングラスを片手に近寄って来た講師は、ヨウコさんの耳もとに口を寄せて短い言葉を発すると、そのまま水のように歩いて、ほかの出席者のほうへと立ち去った。
🍷
数十年前、小さな出版記念パーティで、よく似た経験をした記憶がよみがえった。
宴たけなわ、地方医療のパイオニアとして有名な人物がさりげなく近寄って来た。
――きみ~、安易に「カルチエ・ラタン」を使っちゃいかんよ。:;(∩´﹏`∩);:
ヨウコさんだけに聴こえるように囁かれた言葉の意味が、一瞬、分からなかった。
たしかにそれは新刊書籍のタイトルの一節だったが、著者はヨウコさんではない。
いわゆる小股のきれ上がったというのだろうか、コジャレタ和服姿で満面の笑みを浮かべている当人がそこにいるのに、なぜわたしに墨を吐くわけ? ゆで🐙先生。
🍸
もともとの冷め体質がこのよく似たふたつの出来事によってさらに深まり、社会の過半が褒めそやしても、いや、褒めそやせばそやすほどに冷却の度が増幅していく。
はい、そうです、可愛げなさを絵に描いたような、それがヨウコさんという個体。
その事実を認めたうえで、いいよ別に、わたし、肴の生干しスルメ🦑でいいよ。
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