第28話 まくら談義 🛏️
わたしはもはや枕への期待を捨てた、もしかしたらどこかにこの重い頭をゆったりふっくらと受け留めてくれる、枕の中の枕が待っていてくれるかも知れないという。
そんな寓話を信じることに、疲れ果てた。きっとこのままさいごまで、自分のものとはどうしても思えない、白くてやわらかい物体への齟齬を感じつづけるのだろう。
🐝
思えば枕遍歴は長くて起伏に富んでいる。バタンキューで眠れた若いころのことはまったく記憶にないが、最初に強烈なパンチを喰らったのは、たしか籾殻枕だった。
どうしたことか、ある日とつぜん羽化した羽虫が飛び立ったのだ。それですっかり天然素材がいやになって、ウレタンとかビーズ玉とかの化学素材をいろいろ漁った。
「枕のオーダーメイド」の看板に惹かれてふらっと入った街の布団屋さんで採寸してもらい、大枚一万円の枕を作ったこともあるが、皮肉にも従来で最も寝にくかった。
🏙️
現在は大型スーパーの布団売り場で購入した特徴のない枕を使用しているのだが、今夏の連続熱帯夜には降参で、エアコンの助けをかりても寝苦しい夜を重ねている。
こういうときはどうしてもツマラナイことを考えがち。下手な考え休むに似たりと言ってみても、熱をもった枕の上で目をつむると、あれやらこれやら浮かんで来る。
昨夜の際限なしリフレインは噂好きな某年配女性のご注進めいた告げ口で、「あの人ったらお宅の会社のこと、こう言ったのよ。で、わたしすぐ言い返してやったの」
つまりは自分の手柄にお礼を言って欲しいのだが、あのねえ、これでたしか四度目なんですけど、そのたびにこちらの耳が汚されるんですけど~ ← これは心の声。
🏠
気づくとカーテンの向こうが白々明け初めている。いつの間にか寝入ったらしい。
邪険にした枕はといえば、カバー代わりの白いバスタオルを巻かれて捩れている。
ごめん、よく考えれば、あんたのおかげでなんとか生きているようなものだよね。
夜半の無礼を詫びつつ引きはがしたバスタオルを洗濯機へ。さあ、起きようかね。
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