第14話 にわとり家族 🐤
じゃあ始めるわよ。わたくしの名前はフミ、むろん仮名よ、まあねえちょっとした有名人だから隠しても意味がないとは思うけど、一応、こういう場合の常識として。
そう、自分で起こした結社誌を主宰しているの、東京から疎開して来てからだから何十年になるかしら、まあいいわ、細かいことは、わたくしの髪で分かるでしょう。
なんだかねえ、みなさんに可愛がってもらって会員数もどんどん増えて、そのうちに東京支部もつくったりして、気づいたらあなた、芸術院会員に推されていたのよ。
いいえ、ちっとも名誉なんて思わないわよ、くれるって言うからもらっただけで。わたくしの父親は◇・◇△事件の重要人物だったから、そっちの方がよほどの栄誉。
🎌
そんなことよりあなた、今日はうちの子たちの取材に来てくださったんでしょう。さっきまでそこで遊んでいたんだけどね、タローの号令で、自室へ引きあげたのよ。
ええ、タローがボスね、うちのニワトリ軍団の。つぎがジローでサブローシロー、末弟はハチローまで、全部で八羽がわたしの家族なの、そう、内藤ファミリーね。
夜が明けるでしょう、すると、ふつうのニワトリは矢も楯もたまらず叫ぶわよね、コケコッコーって。でも、うちの子らはそこをぐっと我慢するの、えらいでしょう。
でね、タローを先頭にジロー、サブロー、シロー、ゴロー、ロクロ―、シチロー、ハチローと一列縦隊で、とっとことっとこ行進して来るの、わたくしのベッドまで。
🌄
全員が横一列に並ぶと、タローが高らかに叫ぶの「コケコッコー、夜が明けた」。すると、ジロー以下がいっせいに羽をバタバタさせ、
なにをって、ダンスよダンス。そうね、日によっていろいろよ、フォークダンスの日もあればワルツやルンバの日もあり、興がのればツイストやゴーゴーの日もある。
でね、こうしてベッドから手を伸ばして、一羽ずつ赤い鶏冠を撫でてやると、至極満悦そうに頬を赤らめて(あら、ほんとよ)、また全員で自室へ引きあげて行くの。
以上、わが家のニワトリ譚でした。じゃあ、いよいよマイファミリーを見に行く?
あ、気をつけて、なにしろ、ときと場所を選ばないでしょう、あの子たちのお尻。
👗
そう言って籐の安楽椅子から立ち上がった老歌人の華奢な肩は薄紫のショールで包まれていましたが、レースの孔にニワトリの羽らしきものがびっしり絡まって……。
黒いロングスカートの脚を運びながら先に立つ老歌人からは、オーデコロンならぬニワトリ臭がぷんぷんと匂い立ち、スリッパがフンを踏んでもまったく気に留めず。
そして着いた廊下の突き当りの部屋のドアを開けると、八羽のニワトリが行儀よく並んで……はいましたが、ぴくりとも動かず……はい、剝製だったんですね~。👻
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