群青の空

 とりあえず人混みへ入ったが、どこに行くかを決めておらず、流れに身を任せていた。優斗に会う前にマップを配っていたので貰ったが、私は地図が全然読めないため父に案内されていた。そのため、会場がどうなっているか把握出来ていないでいた。

「じゃあ、どこ行こっか。」

「私はどこでもいいかな。」

「そういえば昼飯食べた?」

「まだ食べてないけど、さっきの団子でお腹いっぱい。」

「そっか、俺まだ食ってないんだけど付き合ってくれる?」

「いいよ、何食べるの?」

「焼きそばとかかなぁ、無難に。」

「いいね、どこにあるのかな?」

 私がそう言うと、優斗は会場マップを取り出す。

「流石に出店一つ一つは書いてないな。探しに行くか。」


 人混みの中を進み、市役所前まで来た。市役所前の広場には特設ステージが鎮座しており、キャラクターショーや歌手のライブなどが行われるらしい。ちょうど今の時間は昼休憩らしく、ステージの周りには誰もいない。

 ちょうど市役所の前に焼きそばの屋台を見つけた。

「すみません、焼きそばひとつ。」

「はい、500円。」

 店主と思われる少し強面のおじさんが接客をしている。優斗は1000円札を差し出し、お釣りと焼きそばを受け取る。

「箸何膳いる?」

「みのり、ちょっと食べるか?」

「少しだけもらおうかな。」

「じゃあ二膳で。」


 店を離れ、駐車場の柵に腰掛ける。優斗から割り箸を受け取り、二つに割る。隣では優斗が上手く割れないでいた。

「みのりはなんでそんなに上手く割れんの?」

「こうじゃなくてこう割るの。そうするとまあまあ上手く割れるよ。」

「へぇ、そうなのか。先食べるか?」

「うん、ありがとう。」

 優斗から焼きそばを受け取り、麺をすする。こうして二人で食べ物をシェアするのも高校以来で久しぶりだ。

 一口食べたあと、優斗に返す。優斗は不揃いの割り箸を使って焼きそばを食べる。持ちづらそうにしているが、私に見栄を張っているのか気にしないフリをしていた。

 焼きそばを食べ終えると、せっかくだからということで一通り回ってみることにした。


 大通りから離れ、細い道へ入る。周りはいかにも住宅街といった感じだが、 所狭しと屋台がひしめいている。

「あ、かき氷だ。夏だし、食べない?」

「そうだな、食べるか。」

 今日みたいに暑い日にはかき氷が人気なのか、屋台に行列ができている。ほかのかき氷屋も大して変わらないくらい待ちそうなので、近くにあったところに並ぶ。どんどん列が前に進み、私たちの順番が来る。

「すみません、かき氷二個ください。」

「味はどうしますか?」

「じゃあメロンと、」

「俺はブルーハワイで。」

「メロンとブルーハワイですね、600円になります。600円ちょうどいただきます。ただいま準備しますので少々お待ちください。」

 目の前のかき氷機では、氷がふわふわとした雪のように積もっていく。そして緑と青のシロップがかけられる。

「はい、こっちがメロンで、こっちはブルーハワイ!ありがとねぇー。」

 店からすぐところに駐車場を活用したオープンテラスが解放されていた。机には「この敷地内の店舗で購入した者以外の使用を禁ず」と書かれた紙が貼ってある。ちょうど家族連れが席を離れたので、そこに座る。

 緑色に染った雪山をザクザクと掘り進めていく。甘い雪が口の中でふわりと溶ける。

「うっ、頭痛っ!」

 勢いよく食べ進めていた優斗が声を上げる。

「そんなに早く食べるからだよ。」

 その瞬間、着信音がする。携帯を見てみると、父からだった。

「もしもしー?」

「おっ、みのり。父さんやらなきゃ行けないこと思い出してな、そろそろ帰ろうと思ってるんだが、みのりはどうするか?」

「うーん、まだ帰らないかな。」

「じゃあ先帰ってるぞ。」

「うん、まあ適当に帰るよ。」

「わかった、それじゃまたな」

「また後で。」

 電話を切り、またかき氷を食べる。未だに頭を抱えながら食べる優斗を見つめながら、空の色から今日も一日が終わりかけていることを感じる。町は少しづつ赤みが増してきている。



 半分に欠けた月が、まだ青い空に現れた。

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星空の色 マグノリア @magnolia_20141107

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