紺碧の空
車は田舎道を進む。周りには田んぼ以外何も無い。
「そういや、風斗くんとはどうなったんだ?」
「風斗じゃなくて優斗ね。」
「ああ、そうそう優斗くん。」
石原優斗、高校2年の頃から付き合い始めた彼氏の名前だ。しかし上京してから一年経った頃、優斗と疎遠になってしまい別れてしまった。よくバカップルと呼ばれるほど仲が良かったが、物理的に離れてからは心理的にも離れてしまった。
「まあ、上手くやってるよ。」
実際は年に数回連絡するだけなのに、見栄を張って答えた。両親は遅くに結婚したからか出会いが少なかったらしく、私が無事結婚できるか心配している。
「そうか、それなら安心だ。あれはいい男だぞ。」
「そう...だよね...」
「そうさ、俺がみのりだったら間違いなく結婚してるな。」
「お父さん、あんまり気持ち悪いこと言わないでよ。」
「すまんすまん、」
父が笑いながら謝る。
そうこうしているうちに、祭りの会場である商店街についた。いつもはポツポツとしか人がいないのに、今日に限っては大通りを封鎖しても収まりきらないくらいの人でごった返していた。この商店街にも久しぶりに来る。子供の頃はよく父に連れて行ってもらっていた。
車を降りると、むっとした暑さが肌に触れる。最近は気温が異常なまでに上がっている。私がまだこっちにいた頃は30℃を超える日など滅多になかったが、今では半分ほどの日が30℃近くにまで上がる。それどころか35℃を超える日が数日あるほどだ。
近くの駅から伸びる町一番の大通りは市役所まで通行規制がされていて、道の両側には出店がこれでもかというほど並んでいる。かき氷やチョコバナナ、フランクフルトや牛串など色々な屋台が軒を連ねている。
朝食をとってからすぐだったので、あまり重くなさそうなものを買うことにした。今話題の10円パンや少し流行遅れのタピオカなど若者狙いのものが多くある。しかし肝心の若者は私のように上京しているため、少ないのが現状だ。
何を食べようか迷っていると、屋台から聞き覚えのある声が聞こえた。
「おっ、みのりちゃん!団子食べてかない?」
「マサさん、お久しぶりです。ぜひ!」
マサさんは父の昔からの友人で今も家族ぐるみで付き合っている。父と同じ高校に通っていて、そこで知り合ったらしい。
団子を1本買うと、
「どう、最近?うちの息子もやっと上京したんだけどさぁ、どうも上手くいってないみたいなんだよね。いっつもお金が足りないから貸してって言うんだけど、やっぱり独り立ちして欲しいけど貸しちゃうんだよね。可愛いって罪だよね~」
となかなかに返答に困る質問を飛ばしてくる。答えが浮かばず苦笑いしていると、後ろから父が、
「わかるわかる、うちのみのりもこの前職失っちゃってねぇ。お金にはあんまり困ってねぇみたいだけど、どうも人間関係が上手くいかねぇみたいでさ。」
とマサさんに話しかける。
「そうなの、みのりちゃんもおんなじとはねぇ。まぁ親からは頑張れ、としか言えねぇもんな。結局は本人次第なんだからさ。」
「まぁできる限りはサポートしていくつもりだからさ、みのりもがんばれよ。」
「じゃあみのりちゃんの就職祈願もかけてほら、これ。」
そう言ってマサさんはもう1本団子をくれた。
「えっ、いいんですか?」
「いいよいいよ、どうせ売れ残るんだしさ。」
マサさんに感謝を告げ、その場を離れる。
「お父さんも食べる?」
「俺はいいよ、さっき食べたばっかりだし。それより、ちょっとビール飲もうかな」
「お父さん運転手でしょ?飲んじゃダメだよ。」
「大丈夫、俺は酔いが消えるのが早いから。こんな暑いのに呑まなくてやってられっかよ。」
「はぁ、捕まっても知らないよ。」
「じゃあ俺はビール買ってくるからそこで待っとって。」
そう言って父はビールを買いに行き、私はここで待つことになった。マサさんからもらった団子をほおばる。団子のもちもち感と上に乗ったあんこが絶妙に合わさってとても美味しい。
最後の一本を食べていると、後ろから声をかけられた。
「みのり?みのりだよな?」
「えっ、優斗?」
「久しぶり、東京から来たの?」
「うん、ちょうど七夕だし来てみた。」
「そうか、俺ちょうど友達と別れたとこで一人なんだけど、一緒に回らない?」
優斗がそう言った瞬間、父が帰ってくる。優斗も父に気が付き、お辞儀する。
「おっ、優斗か。久しぶり。」
「お久しぶりです。今日は二人で来てたんですか?」
「そうなんだよ、嫁が連れてけってうるさくてね。」
「そうなんですね。」
「お前さんたち二人で回ったらどうだ?せっかく再開したんだし。」
「お父さん、でも」
「大丈夫大丈夫、心配すんなみのり。若い二人にジジイは要らねえだろ?俺は一人で巡るよ。」
そう言って父は人混みの中へと消えていった。
「お父さん行っちゃったし、行こうか。」
「おう、そうだな。」
そうして二人は祭りの人混みの中へと入っていく。
二人の上では彦星と織姫をイメージしたイラストが来場客を見守っていた。
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