瑠璃の空

 その後もバスに揺られ、気づくとすでに朝になっていた。到着まで少ししか時間がなかったため、朝食はあとで食べることにした。

 外の景色はすっかり田舎へと変わっており、のどかな雰囲気が漂う。


 バスは目的地に到着し、乗客達がどんどん降りていく。私もそれに続き降りる。朝だというのに太陽が照りつけてかなり暑い。

 駅前は広いロータリーになっていて、何台かのバスと車とが停まっているだけである。

 私はここから在来線に乗って実家まで行く。次の発車まで30分程時間があるが、朝早く着いたためコンビニ以外はどこも開いていない。仕方なく辺りを散策して待つことにした。

 駅ビルや地下街はたくさんの飲食店が軒を連ねている。そのほとんどがまだシャッターを閉めたままでいる。大通り沿いに進み、橋を渡る。橋の上から遠くに見える山は自然の雄大さを感じさせている。


 時間になり駅に入ると、既にホームには青と黄色のラインの入った車両がいた。私はさっそく乗り込み、出発を待った。朝早くなのにも関わらず、そこそこに人が乗っている。今頃東京ではこの程度では済まない程に混んでいるだろう。

 列車が出発する。しばらくは住宅地の中を進んでいくが、しばらくすると風景は田園風景へと変わっていた。山際まで続く田んぼの中をガタンゴトンと音をたてながら走る。列車に揺られ1時間程経ち、ようやく駅に着いた。


 駅を出ると、一台の車が停まっていた。近づいて中を覗いてみると、父が運転席で居眠りしているのが見えた。窓をこんこんと叩くと父はびっくりした様子をして起きた。

「お、みのり。ここまでお疲れさん。ほら、乗り。」

「ありがとう、お父さん。」

 車に乗り込み、買ってきたサンドイッチを開ける。サンドされた鶏の匂いが車内に広がる。

「ウマそうやな、ちょっとくれん?」

「あ、はい。」

 少しちぎり父へと渡す。父は受け取るや否や素早く口へ運ぶ。

「うまいなぁ、これ。」


 それにしても、この田舎っぷりは目を見張るものがある。辺り一面に田んぼが広がっており、周りの山には新緑の葉が萌えている。空は気持ちがいいほど晴れて、強い日差しが肌を強く刺激する。

 暫くすると道は山の中を進む。と思えばまた田んぼが広がる。こんな感じの道が続いている。


 二人の間には沈黙の時が流れた。久しぶりの再会で少し距離を掴めないでいた。気まずい空気を押し退けて父が話しかける。

「最近、仕事はどんな感じや。」

「うん、まあまあかな...」

 

「そうか、まあみのりならなんとかなるやろ。」

 両親に退社したことを伝えたとき、二人とも心配するどころか大事な社会経験だと励ましてくれた。アルバイトを紹介してくれたり、少し生活費を支援してくれたりもした。今まで助けられてばかりいたので恩返しをしようと頑張っていたが、また助けられる形になった。


 父と仕事の話をしているうちに、家に着いた。インターホンを押すと、エプロン姿のままの母が玄関まで来て出迎えてくれた。

「おかえり、みのり。ここまで大変だったでしょ?ゆっくり休んでね。」

「ただいま。あ、これお土産。」

 バスに乗る前に駅で買っておいたお菓子を渡す。

「あら、ありがとう。二階に部屋を用意しといたから、お昼までゆっくりしてね。」

「うん、ありがとう。」


 家に上がると、台所の方から何かが焼けている音がする。


 二階の部屋に入り荷物を広げる。ここは元々私の部屋として使っていたが、上京したときに家具を片付けたため今は空き部屋になっているらしい。小学校に上がった時にもらった机はそのままにしてある。昔描いた落書きも残ったままだった。


 懐かしさを感じながら用意してあった布団に寝転んだ。しばらくすると、疲れが溜まっていたのか寝てしまった。



「みのりー、ご飯できたわよー。」

 一階から母の声が聞こえる。

 階段を下り、香ばしい匂いのする食卓へと向かう。机にはご飯と味噌汁、鮭の塩焼きや青菜のおひたし、そして肉じゃがが並んでいた。

「みのり、肉じゃが好きだったよね?」

「うん、好き。」

「よかった。たくさん作ったからいっぱい食べてね。」


 父はいつもテレビを観ながら食事する。テレビとはいってもニュースばかりだが、行儀が良いとは到底いえない。

 たまたま隣町の七夕祭りについて特集が流れていた。

「そうだみのり、これ行ってみたら?」

「うん、行こうかな。」

「じゃあお父さん、みのりのこと連れて行ってあげて。」

「えっ、俺?俺が連れて行かなあかんの?」

「ほら、みのりも行きたいって言ってるし。」

「みのりひとりで行ってきたらええやん。」

「そんな事言って、あなたしか運転できないんだからね。」

「わかったよ。」

 母に押されて、父は渋々返事をする。


 昼食が終わり、片付けをする。食器を台所へ運ぶと、母が皿洗いを始めようとしている。

「せっかく帰ってきたからなにか手伝わせてよ。」

「あらそう、じゃあこれ洗うの頼めるかしら。」

「うん、わかった。」

「じゃあよろしくね。」


 皿を洗い終え、リビングへ行く。

「お母さん、皿洗い終わったよ。」

「ありがとう。そろそろ行ってきたら?」

「そうだね。お父さん、行こうか。」

「うっし、じゃあ行くか。」

「気をつけてね、二人とも。」

「じゃあ行ってくるね。」


 母に別れを告げ、父と車に乗る。そして隣町へと車は進んでいく。

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