第7話 防空壕の秘密
普通であれば、
「少年の戯言なんだから、別に気にすることはない」
という刑事が多いことだろう。
しかし、辰巳刑事は、相手がたとえ少年であろうと、まわりから信用されていないと思われている人であろうとも、一度は自分の目でその信憑性を確かめることにしている。人のウワサを気にして、それを全面的に信じるなどというのは、捜査をするうえでしてはいけないタブーだと思っているのだった。
だから少年が、
「祠を見た」
というのであれば、
「そんなのは幻想にすぎない]
と言い切るのではなく、
「幻想なのかも知れないが、幻想なら幻想として、そんなものを見るには何かの根拠があると思っている。そこに何らかのわけがあるのであれば、それがその時の事件に、まったく関係ないと言い切ることができるだろうか?」
ということを考えていたのである。
辰巳刑事の考え方は刑事としてどこまでいいのか分からない。何でもかんでも信用して、取捨選択できないのであれば、下手にたくさんの情報がありすぎると、頭の中が整理できずに、混乱してしまうだろう。
しかし、本人に取捨選択を行うだけの気持ちがあるのであれば、それは容認されるべき事態として、辰巳刑事は考える。したがって。三郎少年が今回妄想したという祠というのも、何かの意識があり、そこに勘違いが生じたとしても、それなりに理由めいたものがあるのだと考えるのであった。
辰巳刑事は、清水刑事を尊敬していた。
清水刑事の冷静な判断力に陶酔していると言ってもいい。
「俺もゆくゆくはあんな感じの刑事になりたい」
と思うのは、清水刑事は常に冷静ではありながら、普通なら信じられないようなことであっても、一応は信じてみようと考えるところであった。
「そんなバカな」
などという言葉を、清水刑事の口から聞いたことはなかった。
辰巳刑事は人の話を信じる典型のような人間と思っている自分であっても、時々無意識にであるが、
「そんなバカな」
という言葉を口にしていることにハッとしていた。
清水刑事は、自分のことを、
「俺は決して冷静な刑事だとは思わない。ただ、冷静でありたいとは思っているけどね。だから人から冷静な刑事と言われると素直に嬉しいし、それは自分が冷静な刑事に近づいているという証拠だと思うことで、さらに自分を顧みることができるからだと思っているんだ」
と言っていた。
「私は、人の話を信じやすいというところがあるんですけど、本当であれば、いろいろな情報の中から的確に必要な部分だけを選ぶことができる刑事になりたいと思っているんです。すべてを信じられるとは思っていないので、その中にはウソも混じっていると思うんです。よくいうじゃないですか。『木を隠すなら、森の中』ってですね。それと同じで、真実の中にこそ、ウソが混じっているのかも知れないし、逆に、怪しいと思っていることの中に、真実が隠されているのかも知れないんですよ。そこを見極められる刑事になりたいと思うんですよね」
というと、それを聞いていた清水刑事は、
「辰巳君が、こういう話を今まできっと誰にもしてこなかったんだろうね。話を訊いていて、よく分かる部分と、少し考えながら話をしている部分とがあって、その言葉の端々にこそ、辰巳刑事という真実の人物画いるんじゃないかと思うんだ。我々は真実を究明するのが仕事だと分かっていながら、どうしても、犯人が誰なのかを先に考えてしまう。真相を明らかにすることが大切なんだというのを、今一度考えてみる必要があるのかも知れないね」
と言っていた。
辰巳刑事は三郎少年の話を頭から否定していないつもりを持って、
「君はその時に、ここに祠があると思ってみたんだね? もう一度聞くけど、君が気にしているその人を追いかけてくると、日暮坂の一番上のところの四つ角をその男が左に曲がった。そこを見失わないように思って急いで追いかけて、その角を曲がると、その人の姿はどこにも見ることができなかったので、あたりを見渡すと、そこに今まで見たことがなかった祠があったので気になってしまった。それで、どうしてこんなところに祠があるのかって思って見てみると、その後ろで閃光が見えた。それで気になって祠の後ろを見たわけだね。そこで、洞穴を見つけた。光に誘われるように入ってみると、中は真っ暗だった。真っ暗な中に入っていくと、そこにある何かに躓いて目の前にあるものを見ると、そこには目を見開いた人が俯せに倒れていて、ちょうどひっくり返った時に触った顔が、冷たくて硬かったことと、瞬きをしていなかったことで、その人が死んでいると思い。警察に連絡を入れたと、そういうわけなんだね?」
と、今聞いた話を、自分で見たかのように話した。
話したというよりも、辰巳刑事の意識の中では、
「話して聞かせた」
という方が正解なのかも知れない。
「ええ、その通りです。まさに刑事さんが僕の話を訊いて。分かりやすい言葉で話してくれたという感じです。分かっていただけた気がして嬉しいです」
と三郎少年に言われて、辰巳刑事は黙って頷いた。
それは、三郎少年への敬意と、辰巳刑事の中での分かったことへの自己満足を自分の中で感じている証拠ではなかったか。
辰巳刑事は自己満足という言葉を嫌いではない。
「自分で満足できないことを、人に勧めることなんかできないはずだ。それができるくらいなら、説得力などという力はいらない」
とまで考えているようだった。
「ところで、何か気になったことはあるかな? 君が最初に気になる人を見つけてここまで追いかけてくる中で、少しでも気になることがあったら、聞かせてもらいたいんだ」
と辰巳刑事は言った。
「祠の件は、自分の見間違いだったのかどうか、実際に疑問ではあるんだけど。それ以外となると、あの横穴は表から見えるところにあったということなんでしょうか? 僕は実際にはあんなところに祠があると疑問には感じたんだけど、後ろの洞穴はそれほど不思議には思わなかった。でも、祠はなかったのだとすると、あの洞穴を誰も気にしなかったというのはどういうことなのだろう? って思うんですよ」
と三郎少年は言った。
「でもね、世の中には目の前にあっても、そこにそんなものがあることにまったく違和感がなければ意識しないものだってあると思うんだ。今は夜だし、君が死体を発見したことで、この洞穴が焦点のようになっているんだけど、昼間何もない平和で穏やかな時間帯であれば、誰が気にするかと思うんだよね。君だって、祠を見ていて、後ろの光が気になったから行ってみたら、そこに洞穴があって、入ってみたというわけだろう? 気になったからだということでそれが理由になるんだよ」
という話を辰巳刑事はした。
「確かにその通りなんですよ。僕もあの時、光を見て居なければ、その奥を見ようとまではきっと思わないと思うんですよね。何と言っても自分の目的は、気になっているその人を追跡するという思いだったからですね」
と、三郎少年は言うのだった。
気になったからと言って、どこまで深入りしていいのかなど、小学生では分かるはずもない。だからこそ、大人が教える必要があるのだろうが。子供の方としても、基本的にはあまり深入りしてはいけないということを意識しなければならないと思わなければいけないだろう。
「結局、その人の追跡という意味では、死体を発見してしまったことで失敗に終わったというわけですよね?」
「ええ、その通りです。でも、今から思えば、その人が角を曲がってから、僕は急いでその角まで走っていったんですよ。その間、十秒ちょっとくらいだったと思うんですけど、角を曲がってから、どんなに走ったとしても、その次の角までは結構あります。途中に見んかがあるにはありますけど、そこに入るにも結構遠いんですよ、そこまでには、石の塀がずっと続いているので、忍者でもなければ、乗り越えられないと思うんですよ。じゃあ、一体あの人はどこに行ったんだろう? と思うと、気持ち悪い気がして仕方がないんです」
と、三郎少年は言った。
「うーん、君の話を訊いていると、正直辻褄の合わないところが散見されるが、話としては理路整然としているところがある。それは話を作っていた李、盛っていた李という感じがないからかな? もし、話を作っていたり、盛っていたりすると、どこかに無理が行って、一つの矛盾からいくつもの矛盾が噴き出して、いかにも信憑性が感じられない話になってくるんだが、君の話にはそれがない。辻褄が合わないことを、ウソだとは思わずに、不思議なこととして分けて考えることができるんだ。要するに無理して作った話には、ウソが混じっているということを、自分から公表しているものだと言えるんじゃないかな?」
と、辰巳刑事は話した。
三郎少年が言いたいのもそのことであった。
自分でも納得できないような不思議な話をどのように話せばいいのか難しいところである。人によっては、
「見たもの、思ったものをそのまま話せばいい」
というだろうが、自分でも信じられないことを、本当に見たのかすら思えないことを、いかに人に伝えろというのか、どうしても、自分の中で整理できなくなり、辰巳刑事のいうように、理路整然とした話になどなるはずもなかった。
それを辰巳刑事は。
「理路整然とした話だ」
と言ってくれたのだ。
これは少年としても嬉しいことである。いや、少年であることだからこそ、嬉しいと言えるのではないだろうか。
その日の辰巳刑事の事情聴取は、それくらいしかなかった。きっと辰巳刑事の方も、これ以上聞いても、真新しい話が出てこないと思ったのか、それとも、せっかく理路整然とした話が訊けたのに、それ以上聞いて、話が却って混乱してしまうということを恐れたのか、そのどちらかではないかと思うのだった。
辰巳刑事は、その後、清水刑事のところに向かった。
「辰巳刑事、何か新しい証言でも聞けましたか?」
「そうですね、一つ気になったのは、あの少年がここに入ってきた時、ここの入り口に祠のようなものがあったというんですよ。ウソをついているようにも聞こえなかったし、何かの幻でも見たんでしょうかね?」
と辰巳刑事がいうと、
「祠? 少年が祠と言ったのかね?」
「ええ」
「あの少年はいくつだった?」
「確か、小学四年生なので、十歳ではないかと思います」
「十歳か、だったら。その祠を見たというのは、本当にただの幻かも知れないな」
と清水刑事が言って、考え込んでいた。
すると辰巳刑事が聞きなおし、
「どういうことですか?」
というと、
「ここには確かに昔、祠があったんだよ。それも十五年以上も前のことだというんだけどね。ここが住宅街に区画整理されるということで、そのお地蔵さんを祀った祠は、ここから数十メートル離れた場所に移動させられたんだが、その一帯は、以前から昔の佇まいを残したところで、そこだけは昔のまま残してあるんだそうだ。その理由をさっき増田さんに聞いたんだけど、お地蔵さんをあの場所に移したことで、余計なことをして、怒らせないようにしないといけないという市の行政の人たちの中にこの意見が数人あったそうなんだ」
「せっかく、移してきたのに、何かたたり祟りのようなものがあったのでは、本末転倒にすぎませんからね。それを行政の人は恐れたんでしょうかね」
「ああ、そうだと思う、でも、移動先をここにするように考えた時、かなり早いスピードで決まったらしい。すぐにここに地蔵を移転してから、工事は急ピッチに進んだんだけどね、最後の最後になって、けが人が出たんだそうだ。どうやら地蔵を動かした時に携わった人らしい。だけど、あとで調べた時、彼は怪我はしたんだけど、本当なら、もっと大きな事故に繋がってしまうような事故だったのに、彼の怪我は事故のレベルに比べれば軽傷だったんだって、ある意味、ここに移したことが、功を奏したのではないかという行政の人の話だったんだそうだ」
「それは誰から聞いたんですか?」
「増田さんから聞いたんだ。彼は結構この街の巡査が長いので、結構いろいろなウワサを聞いていたようで、ちょうどこのあたりのウワサとして思い出したのが、今の話だったようなんだ」
と、清水刑事は言った。
「じゃあ、このあたりの区画整理が終わってからはどうなんですか?」
「このあたりの区画整理が終わったのは、それから二、三年くらいなんだそうだけど、それ以降は何もなかったというんだ。今でこそ、このあたりには新興住宅が立ち並んでいるんだけど、区画整理を行う前までは、まだまだ昔のものが普通にいろいろ残っていたというんだ。それも違和感なく、街の中に溶け込んでいたということだったので、さぞやこのあたりだけが、他と違った世界を持っていたんじゃないだろうか」
清水刑事の話にも一理あったが、どこか辰巳刑事の中で理解できないところがあった。
理屈的には話がうまく出来上がっているのだが、何かどこかから、
「作られた話」
のようになり、聴いていて納得できないところがあるのだけれど、それがどこなのか分からない辰巳刑事であった。
「清水刑事はこのあたりのことをよくご存じなんですね?」
と辰巳刑事がいうと、
「ああ、私は中学二年生から高校を卒業するまで、この近くに住んでいたことがあったんだ。あの頃はまだ昭和だったんだけど、今では信じられないような建設ラッシュの時代でもあったんだ。何しろバブルの時代だったからね。皆が皆、会社を大きくすることだけしか見ていなかった時代なんだ。だから、いろいろな事業に手を出したり、開発をすべてに対して優先させたりする機運ばかりだったんだ」
「そうなんですね」
「親の顔も見ることがほとんどないほど、残業など当たり前で、会社に泊まり込みで仕事をしているくらいだったんだ。今でいう過労死とは少し違って、労働することが美徳のように言われていた時代だね。そういえば、『二十四時間戦えますか』なんていう栄養ドリンクのコマーシャルもあったくらいなので、どれほどその頃の企業が、事業を伸ばすことだけを見ていたか分かりそうなものだよね」
という清水刑事に対して、
「それが今度はバブルが崩壊して、進めてきた事業がすべて会社破綻の現認になったということですね?」
と辰巳刑事がいうと、
「ああ、そうだ。広げてきた事業がソックリそのまま不良債権のようになってしまい、それまで言われてきた『銀行神話』もなくなっていったんだ」
と清水刑事が言った。
「銀行神話ってなんですか?」
「今でこそ、銀行であっても、どこかと合併したりしなければ、倒産してしまう時代だろう? でもバブル期までは、銀行は絶対に倒産しないって言われていたんだよ。だから就職活動の時なんか、銀行家公務員であれば、安泰だなんて言われたものさ」
と清水刑事は言った。
「そういえば、昔の銀行は絶対だったという話を訊いたことがありました。でも今では昔ならライバル会社だったところと合併なんか平気でしていますからね。あの頃にサラリーマンをやっていた人は、さぞや時代の急変に驚いたことでしょうね」
「それはそうだろう。銀行だけじゃない。どこかと合併して救済の道を選ぶか、初志貫徹を目指して、そのまま倒産の道を選ぶかの、二者択一を迫られた会社も多かっただろうな」
と清水刑事はいう。
「昭和の時代というと、激動の時代でもあったけど、高度成長時代から、いろいろあったけど、今よりはましだったんだなと私は思っていたんですが、どうなんでしょうね?」
「昔は、結構差別的なことが横行していて。今のように差別に対して、そんなに過敏ではなかったからね。差別という言葉を叫ばれ始めた頃でも、差別があるのは当たり前だという考えが横行していたと思う。差別を壊滅させたいと思っていた人でも、どこまでできるか疑問だったはず。今ほど差別に対して過敏になる時代を、その人たちはどこまで考えていたんだろうね。意外ともっと違ったイメージを思っていたのかも知れないね」
と清水刑事がいうと、
「それはどういうイメージですか?」
「差別という言葉にばかり敏感になっていて、今では差別用語もたくさんあって、昔は平気で言っていた言葉も言わなくなってきた。逆にいうと、ギクシャクした世界にも思えてくる気が、昔を知っている人から見れば見えてくるような気がするんだ。彼らが目指した差別のない世界に対する正解って、今のような世の中なんだろうかってね。これがもし過程だったとすると、一体どんな世の中になるというんだろう?」
と清水刑事は溜息をついた。
二人は、その日、現場でほとんど何も発見できなかったことを少し気にしていた。こんな洞窟の中で殺人が行われたのだから、真っ暗なところなので、殺人を行っても、遺留品は見つからないのも無理はないと思われたが、しいて言えば、被害者の近くに落ちている指輪くらいであろうか。
その指輪は被害者がしていたもののようだ。殺されそうになってもがいている時に、指からすり抜けたのだろうか。被害者のそばに落ちていて、不自然に遠いわけではなかったので、
「争っているうちに取れてしまったのだろう?」
ということであった。
被害者の死亡推定時刻は、今から六時間くらい前だというので、逆算すれば、午後二時過ぎから三時くらいまでだと言えるのではないだろうか。死因は絞殺、どうやら後ろから絞殺されたのだろう。犯行現場はここに間違いないようで、洞穴というだけ、地面は土になっていて、争った跡がくっきりと残っていた。
午後二時というと、表は十分に明るく、日差しが入ってきてもおかしくないくらいのこの場所であるが、
「どうやら後ろから不意に首を絞められたようですね。必死に抗おうという感じはしていますが、被害者が前を向いたとは思えません。ひょっとすると、自分を殺した相手が誰なのか分からずに死んでいったのかも知れませんね」
という鑑識管の話に、清水刑事はやり切れないような表情をして、哀れな被害者に手を合わせていた。
「しかし、それにしても、この被害者は。ここに何のようがあったんでしょうね、そもそも、こんな住宅街の区画整理もキチンとされたところに、昔の防空壕の跡が残っているというのもおかしなものだよね」
と清水刑事がいうと、
「ここは元々、表に祠があったんですよ。その祠を移動させなければいけなくなって、祠を移動させてみると、その下から防空壕が見つかったんです。きっと祠で隠していたのかも知れないですね。一度、祠を移動させる前に、神社にお願いしてお祓いをしていただいたんですが、防空壕も同じようにお祓いをしてもらったわけですが、その防空壕というのは、調べてみると、以前ここを整理する時にどうしても見つからなかったところのようで、まさか祠の下になっているなど、誰も気づかなかった。で、中を確認してみると、そこには何と数体の白骨が転がっていたんです。ひょっとすると爆弾が近くに落ちて、ここがふさがってしまったか何かで、出ることができなくなったんじゃないかってね。いわゆる生き埋めというやつです。人が死ぬ時、何が怖いかといって、ジワジワ死ぬのを待っていることほど恐ろしいことはない。しかも数人での生き埋めなので、死んでいく順番も当然違う。生き残った人は、苦しんで死んでいく人を嫌でも見なければいけない。そしていずれは自分が同じ運命になるんですよ。これほど恐ろしいことはない。だから、それを分かっている人が、祠で隠したという話があったんです。だから、祠は移動させなければいけなかったんですが、防空壕はどうしても塞ぐことはできなかった。中に入ることができないようにしてさえおけば、それだけでいいと思っていたんですね。白骨はそのまま運び出されて、手厚く荼毘に付されたのですが、ここは、いわゆる「開かずの扉」として封印することにしたというわけです。だから、ずっとここは開かずだったはずなのに、いつこんな風に出入りができるようになったのか、不思議ですよね」
と増田警官は言った。
「増田さんは結構このあたりの事情に詳しいんですね?」
と訊かれて、
「ええ、自分が赴任する土地の歴史や風俗は調べておくようにはしているんですが、ここはどうも何か曰くがありげな感じでしたので、入り込んで調べました。なかなか分かってくるまでには苦労しましたが、なるほどこれだけのことがあったのでは、分かりにくいのも無理もないことだって思いました。やっぱりこの街は何かの呪いが残っているんでしょうかね?」
と増田警官が呟くように言った。
この街は、元々は、大都市から少し離れたところなので、この街には都会にはない、この街独自の文化のようなものが反映していたとのことだった。そういう意味ではまだまだ知られざる秘密があるのかと清水刑事は感じたが。いつの間に蚊、大都市のベッドタウンになっているのだから、そのあたりにも何か事情が渦巻いているのではないかと思えるのだった。
「戦争が終わってから、もう七十年以上も経つというのに、都会に姿を変えた場所が大半である反面、ちょっと入れば、誰も知らないような秘密を持った場所が姿を現す」
というのは実に不思議な街である。
それだけ新旧渦巻く街だと言えるのだろうが、それが妖艶な側面を浮き彫りにしているのだった。
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