第17話 やればできるがやるのってどうよ?
快適な空の旅。
前も一度利用したペガサスだが、やっぱすっげー。
幼い頃の俺よ、夢がかなったぞ! 二回目だな!
あ、今の俺には夢がないが。
「ヘンタイ! 気を抜かず、持ち場つけ!」
……と、現実逃避していたが、俺は意識を切り替える。
俺の居場所は、現在高度1000m付近を航行する、『吝嗇』マルシアが操縦するペガサスこと飛行艇のデッキである。
操舵するマルシアは、巨乳美少女とは思えぬ野太い声で「早く、迎撃!」と俺に訴える。
俺は隣に視線をやると、奴隷商人から引っ張って来た地雷系美少女騎士ジャスパーは「死のうか」と晩飯なにかな? と言うトーンで酷いことを口にしてらっしゃる。
良心を求めて視線を前にやれば、タダ乗りクライアント様である不本意負けヒロインこと、セラフィラ嬢が青筋浮かべてらっしゃった。
そして俺は肩を叩かれる。
「クリストファ、出番」
ギルド随行員である斥候冥土(誤字にあらず)マデリンが俺を促す。
「アレ、大怪鳥! 俺、人間! 飛べない!」
「知ってる。いこっか?」
有無を言わさぬ圧力に、俺はやけくそ気味に叫ぶ。
「やったらぁ! 見てろよオメーら!」
人類舐めんな、糞鳥め!
と、俺は特典を発動。絶対普通じゃダメだということで呪文を読み上げた。
「【我は我にあらず、我はこそは大衆大願の鏡——】」
投射兵器を使うしかないという事で、再びのバロウズ一択である。
俺が【私】へと戻っていく感覚と共に、7割が私に戻って来た。
「鳥よ、足りないその頭で我が方に敵対したのは悪手であるぞ?」
以前は戻らなかった、魔技の冴えが私の指に宿る。
ご令嬢から渡された弓を手に、私は大怪鳥を見据える。
「【二度射られよ————非常の射】」
魔力を帯びた矢が一直線に飛ぶ。ただ敵も弓への学習があったのだろう、身をひるがえして回避すると言う、私の予想通りの行動をとった。
「鳥頭よ、ただ私が射かけたと思うたか?」
獣故、言葉は通じぬ。
だが、私が言い終わると同時に大怪鳥の悲鳴が響く。
「矢の形姿、実の矢、魔力の矢、虚実交えた2段の痛みは如何?」
私はそう言ってとどめの矢の一撃を放とうとして…
「えい」
横からのジャスパーの一撃により思いっきり吹っ飛んだ。
俺はコブの出来た頭を押さえていた。
「頭、クソ痛いんですが?」
そう言うと、びくっとジャスパーは顔をそらす。
「じゃ次は……マルシア?」
呑気に大怪鳥の羽をむしりながらマデリンが言う。
一方指名されたマルシアは引きつりながら言った。
「いやだ! あんなウザキモイ状態のクリストファとか生理的に無理!」
「残念。ならセラフィラ様」
「謹んでお受けいたしましょう。こう、メイス振りにもコツありましてよ?」
「そのうち俺の頭、はじけると思うんだけど!」
俺が嫌味を言うと、取りなすようにマデリンが言う。
「やはりクリストファ、嘘つき」
「………そりゃ特典が頼みの綱だから隠してるわ」
あと、役の憑依は無条件に連発できるものではない。
役を演じるのではなく、文字通り憑依させているのが、あの状態である。
月夜叉姫は特典に飼いなされていると言ったが、まさに俺はそれである。
……試したことは無いが9割行けば、俺が戻ってこれるかさえ分からないのだ。
更に、役を降ろした時間だけ自分に戻れないリスクと、役の憑依の割合だけ別の役を演じるのにデバフが掛かるのだから、俺の特典は完全無欠の能力と言い難い。
「それより、備え付けの銛で討伐って……俺頑張る必要なかったよね?」
素朴な疑問を口にすると、マデリンとジャスパーとセラフィラ様が口をそろえて言った。
「「「安全策、か弱い女子ですから」」」
「どの口が言うん?」
直後俺に、すりこぎと大楯とメイスが突き刺さったのは言うまでもない。
トラブルを解決して暫く。俺は詫びの意味を込めて、操舵室へと向かっていた。
「入っていいか?」
ノックしつつ、そう尋ねるとマルシアが返事を返した。
「入りたいなら入れ」
俺が入室すると、マルシアは航図片手に操舵していた。
「大?つき、だました気分はどうだ?」
嫌味を吐かれたものの、機嫌そのものは先ほどよりはマシだろう。俺は操舵室の副操縦士の椅子に腰かけつつ答えた。
「最悪だね」
「お前のことだ、危ない場所へは行かせない、とか言いそうだが……やけにしおらしいな」
「そうしたかったんだよ、ホントは」
俺が言うと、マルシアはため息をつく。
「お前は疫病神だ」
「理解してるよ、自分でも」
俺が答えると、マルシアは半自動に操舵を切り替える。
そして、こちらを見た。
「本当に理解しているのか? 勇者さまを出し抜いての魔王殺し」
痛いところを突かれた。
そりゃ、考えなかった訳じゃない。依頼者の姫様達からすりゃ俺は後始末のために動いているが、勇者様からすりゃ、俺は手柄の横取りをたくらむ奴である。
勇者さまが肯定される世界で、俺がやろうとしているのは結構な横紙破りである。
「善悪考えても仕方ないだろう? 俺はやらされる側」
俺の投げやりな答えに、マルシアは疑問を投げかけた。
「そうとも言えないだろ? お前、本気出せば何かできるはずだ」
「……貶められると思ってたんだけど?」
「お前は厄介な奴だが、無能じゃないと思ってる。純戦闘でない特典で中堅冒険者としてソロで長くやれるのも、その証拠だろ」
俺は黙る。マルシアが俺を評価してくれるのは伝わった。
ただ、俺は弱音を口にしていた。
「だけどな、俺には何ができるか俺には分らんのだわ。ずっと特典ありきでやってきた。俺じゃない、俺の特典あってだ。俺はおまけだよ」
そう俺は口にし、黙った。
「持てるものしか、人間持てないもんだぜ」
マルシアはそう言った。
「たまたま強力なものを持ってただけだとしても?」
「それこそ、運だろ。私が歴史ある馬借の娘として、こうして損してるように」
マルシアはそれだけ言うと、俺を追い出すように言った。
「付き合い長いからって弱みを見せんなよ。私はお前のママじゃねえ」
「悪かったよマルシア」
俺は椅子から立ち上がると言った。
「どうやらビビってたわ」
そんな強がりを口にした俺に、彼女は言った。
「この旅の終わりまでは付き合ってやる。感謝しろよ」
「わかってる」
俺はそうして操舵室を後にした。
改修・改装が為されているが、それでもペガサスが元は皇帝陛下の乗り物だったことには違いない。
俺は客室に皆を集めて、今一度意見をすり合わせることにした。
「トラブルあったが、出発は出来た」
進行役の俺が言うと、半自動に切り替えて操船から外れたマルシアが苦言を示す。
「発進だけだ! 馬鹿野郎! 推進用の蒸留酒は足りねえ、物資も最低限だ!」
「タコ殴りにされるよりはマシだろ!」
俺がマルシアに言い返すと、セラフィラ様が口を挟む。
「マルシア、責任の一端は私にもありますわ。ここは私に免じて下さいまし」
マルシアはねめつけるようにセラフィラ様を見て、口を閉ざす。
「ありがとうございます……次、実働面での確認だ」
俺はマデリンとジャスパーを見る。
「魔王を確実に葬れると仮定。潜る距離にもよるけど、距離が長ければ長いほど無事な撤退は厳しい」
マデリンはそう言う。俺も同じ見解だ。
「ジャスパー的には、短い方がうれしいの。お荷物でジャスパーを捨てるんだったら別だけど」
「いや、ソレは無い。と言うかやったら俺がブルーク氏から刺客を差し向けられる」
悲観的なジャスパーの意見を訂正し、俺はセラフィラ様を見る。
「セラフィラ様」
「なんです? 負けヒロインの私に?」
根に持ってらっしゃる……
俺はぐっと我慢して質問する。
「最悪の改定ですが、欠損は何処まで直せますか?」
「………そうですわね、欠損が5割超えたら魔力が満タンでも不可、余裕を見るなら手足の5、6本生やしたら終わりと思ってください」
この申し出にマデリンとジャスパーが確認をいれる。
「骨折は? あと指を失った時も知りたい」
「状態によりますわ」
「バフはどうなの? ジャスパー的にはバフも知りたいの」
「……専門のバッファーではございませんので、強いのは無理ですわ。ただスタミナ・体力ならお任せください」
この言葉に、マデリンが俺を見る。
「クリストファ、マジックポーションとスクロールの限度は?」
「無制限と言いたいけど、俺用に数個は確保したい」
そこまで言うと、マルシアが再び口を開いた。
「目的達成の意見交換はいいけどよ、その間、ペガサスどうするつもりだ?」
この中の唯一の非戦闘員がマルシアである。
ゴブったり、オークったり、触手ったりする可能性が高いからこその発言だろう。
俺は顎に手を当てた。
「……これはどうだ?」
俺が提案すると、マルシアは絶句。
「お前、馬鹿だろ」
と有難い言葉を頂く。だが、戦闘員ズはしばらく考えると答えた。
「私、賛成」
「ジャスパーも」
躊躇ったのは、セラフィラ様である。
「ええと、利にはかなってると思いますけど……よろしいのでしょうか?」
俺は、自信を持って答えた。
「相手の土俵で相撲とる必要がどこにあるんです?」
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