第15話 刺客との遭遇3

 マルシアも交えた、フルメンバーが『天国の絨毯』に揃った。

 一通りの自己紹介が終わってから、セラフィラ様が口を開く。

「まず、危ないところを救って頂き感謝いたしますわ」

 頭を下げる彼女へ、女性陣がめいめい声をかける。

「メイドの当然」

「ジャスパーも騎士だから……でも守るのは王子様がよかったなぁ」

「依頼人だから、クリストファが守るのが筋だろ?」

 俺は空気を読んで沈黙した。

 口げんかに勝てる気がしなかったからではない。

「皆さまにお話しようと思っているのは、ちょっと暗い話になります」

 そうセラフィラ様が言うと、何故か全員俺を見た。

「……あの、なんでしょう?」

 俺がそう言うと、セラフィラ様は言った。

「私の家以外が、その……魔王討伐を断念するように動いているのです」

「ホント糞だな」

 思わず俺はそう口にしていた。

 後ろでマルシアが俺の背中を抓る。恐らく聞いていない! のアピールだろう。

 セラフィラ様は目をぱちくりしたが、苦笑いすると言った。

「ユウシャ様がチートの弱体化が行われてない以上、勇者様がやるべしとのことで、他家が合意したそうですわ」

「皆で不幸になろう? 酷い」

 マデリンがそう言うと、セラフィラ様は頷く。

「マデリンの指摘通りですわね。私がやるのも、エンジュ様が行うのも認められない……ホント、子供みたいな理屈」

 ジャスパーは黙っている、マデリンも同様だ。

 俺は脳裏に月夜叉姫の顔が浮かんだ。あー、だからキレてたのかと納得しつつも、俺は逆に質問する。

「とは言え、魔王倒すの決定事項なんですけど……」

「ええ、ですから用心してくださいましと連絡しようとして、今に至る訳ですの」

 そこで、沈黙を保っていたマルシアが顔色を変えた。

 なんで、だろうカナー?

 と思っていたが、忌々しい俺の脳みそは最悪の未来を導き出す。


 あ、これヤバいやつ……

 

 俺が脂汗を掻いているのを見て、ジャスパーが言う。

「ご主人様、汗っかきなの?」

 俺はマルシアに叱られる前に、声を上げた。

「マルシア、ペガサスって動かせ………るか」

 間が空いたのは、爆発音からである。

 即座に動いたマデリンは、窓から周囲を見、言った。

「囲まれてる」

 その言葉が出た瞬間、俺はマルシアに首を絞められていた。

「お前のせいだ! この疫病神! なんだよ魔王殺しってハメやがったな!」

「ちょ、苦しい、当たってる! 死ぬ!」

「死ね! セクハラ! 死ね!」

 意識が遠のきそうになったところで、ジャスパーが俺ら二人ごと持ち上げた。

 ソレに驚いたマルシアは俺を放した。

「マルシア、気持ちはわかるけど後にするの」

「だって!」

 ヒートアップするマルシアだったが、ジャスパーは言う。

「修羅場潜ってる私、マデリン、ご主人様に託すべきなの」

「……わかった、今は私が悪かった」

 いい傾向である。

 足元で俺が咳き込んでいて、マルシアをジャスパーが吊り上げた形でなければ。

「どうする、クリストファ?」

 マデリンはお玉を取り出しつつ、俺に言う。

「……その前に、確認させてくれ」

 俺はそうマデリンに言うと、セラフィラ様に向いた。

「もうこうなったら、一蓮托生です。どうします? セラフィラ様」

 セラフィラ様は目を閉じ、それから答えた。

「やりましょう」



 敵は寄せ集めだが、ソレでも結構な集団である。

 今も『天国の絨毯』の敷地へと続々と侵入してきている。

 なので、俺は手短に話す。

「マルシア、悪いがペガサスの起動を頼む」

「……わかった。けど、この借り、絶対倍にして返せよ!」

「約束する」

 俺は次に、マデリンを見る。

「迎撃に出る?」

「いや、今回はマルシアと行動してくれ」

 そう言いつつ、俺はお玉から視線を逸らす。トラウマからではない、と言いたい。

「分かった、ペガサス発進の妨害を防ぐ」

「頼んだ」

 俺はジャスパーを見る。

「しんがり? ああ、奴隷として当然………死にたくなるの」

「違う。悪いがジャスパー、馬丁たちを逃がしてくれ」

 俺がそう言うと、マルシアがひゅっと息を吸うのが分かった。

「……分かった」

 ジャスパーはそう言うと目を閉じた。

「私は?」

 そうして最後に残った、セラフィラ様が質問してくる。

 俺は、この際だからと言った。

「俺に協力して頂きたい」

「勿論ですわ」

「ただし!!」

 俺は、語調を強めた。

「なんですの!?」

「ここで、神に宣誓してください! 神が駄目なら皇帝陛下でも可です!!」

 俺のこの発言に、目くじらを立てたのがマルシアだ。

「おい馬鹿、この非常時に何を言ってる!?」

「非常時だからバカやるんだよ!」

 俺はそう言い返してから、セラフィラ様を見る。

「誓えます?」

「勿論ですわ!」

 俺は安堵の息を吐く。

 ただ、俺のやることを本能で察したのかもしれん。マデリンが言う。

「今は許す。後で、全裸土下座と恥ずかしいポエム朗読」

「なんでよ?」

 そんな一幕がありつつも、俺らは目的のために動き出した。

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