第14話 刺客との遭遇2

 予想通り、追っ手は二人どころではなかった。

 セラフィラ嬢の馬車の馬やら、それこそ荷馬車をかっぱらって、執拗に俺らを追撃してきやがった。

 この3騎と1台の襲撃に、俺らは大苦戦していた。

「これ、御法度でしょう?」

 法令をガン無視して、俺らは馬車を疾走させている。

 混乱してか、法令無視の罰則を恐れたセラフィラ嬢が青い顔で叫ぶが、残念なことに誰も返事が出来なかった。

 マデリンは御者でそれどころでなく、ジャスパーは次から次へと飛んで来る、銃弾、矢、ボルト、そして魔法を叩き落すのに必死だったからだ。

 そして俺も――弓での攻撃を続けていた。

「2割じゃダメか……4割…いやくそ! 6割だ! もってけ泥棒!」

 特典を使用して精度が上がった筈なのに、俺は矢で有効打を敵に与えられずにいた。

 追撃してくる馬車が特に厄介で、車上射撃に加えて向こうの揺れが原因か、矢はおしいところで避けられる。

 やむを得ず、俺は役の割合を引き上げる。

 特典は俺の許可に応え―――【私】の弓の腕を【元】へと正してゆく。

「まず一人ぞ」

 投ずる先に届けばよろしい。

 私は甘い引きで矢を放つ。

 車上の揺れもなんぞのこと、私の射は御者台の下郎の腕に突き立つ。

 利き手に矢を受けたことで、御者は手綱を誤る。馬が体をひねったことで、大きく車体が揺れ、後部座席の射手が路面へと放り投げ出された。

「次」

 二の矢で私は、その馬車の近くを並走していた騎手の足を穿った。

 痛みで馬の腹を蹴り上げてしまったらしく、当然馬が跳ねた。そのまま騎手は落馬し、馬は馬で荷馬車の脇に体をぶつける。荷馬車への影響で、それを引く馬が転倒した。

 当然、御者は―――半身をすり下ろされながら路面を滑って行った。

「ん?」

 込み入った住宅街へと入ったらしい。

 ロープがかけられ、そこに大量の洗濯物が通されていたことから、洗濯街だと思われる。町中の洗濯物が集まる場所だ。

 強引に、細い路地に馬車を滑り込ませたところで、マデリン嬢が私に聞く。

「まだ!? 残りは!」

「あと2騎ゆえ、しばし待たれよ、お嬢さん方!」

 マンデリン嬢に返事をしつつ私は弓を引き絞る。

「ご主人様? 何それ」

 氷魔法を叩き落したジャスパーが疑問を口にするが、私は笑う。

「見よ」

 放った矢は、洗濯物を干すためのロープを切断。

 自重で落ちる洗濯物が襲撃者へと殺到する。

 一騎は馬が、のこる一騎は襲撃者本人が視界を失ったことで転倒なり、壁への衝突なりを起こす。

 ガラガラと馬車の音を響かせながら、私は高らかに叫ぶ。

「我こそ、大半島一の弓使いバロウズなり!」



 大回りしたが、私たちはマルシアの店へと戻った。

 荷馬車から先におり、セラフィラ嬢を私はエスコートする。

「さ、ご令嬢……こちらへ」

「え? あ?」

 まごつくのもやむ無しかな。

 この地は雛で蛮なる場であるものなあ…

「安心なされよ、ここにご令嬢の敵はおりませぬ。この騎士たる我がッ……べっ?!」

 猛烈な頭部への痛みで【俺】は我に返る。

「何すんだ!」

「ウザキャラ退治」

 無表情でマデリンがそう言うと、すりこぎを仕舞う。


……え。待って。そんな凶器で俺を殴ったの?


「ご主人様、あのウザ…面倒くさいものいいってなんなの」

「ジャスパー、訂正できてない」

 俺がそう言うと、マデリンが言う。

「アレ、クリストファが編み出した演劇系特典の戦闘流用」

「……情動への働きかけでなくて?」

 ジャスパーが目を白黒させる。

 俺は気まずくなりながらも、一応説明した。

「雑に言えば、自分自身に向けて特典ブッパしてるもん」

「正気なの?」

「うん正気……と言うか、説明したじゃん? 魔王殺せるって」

 信じられない物を見た顔で、ジャスパーはマデリンを見る。

「少なくともクリストファは嘘を言ってない。刺されば私やジャスパーでも負ける」

「うざいのに?」

「うざいのは役だから! 憑けた役だから! 俺はうざくない!」

 俺が必死で釈明すると、ジャスパーは納得したらしい。

「一応、納得はしたの。特典は千差万別だし、優劣が強さと一致しないから」

 訂正、ジャスパーめっちゃ思う所あるっぽい。

 しかし迷惑かけたとしても、自分の特典を丸開示する訳にもいかないので、俺は話題を変えることにした。

「俺の特典の話なんて今はいいだろ? それよりもセラフィラ様の話を聞こう」

 そう言って俺がセラフィラ様を見ると、彼女は俺をしげしげと見てからこう言った。

「クリストファ、気障なセリフを言うなら身嗜みを気にしませんこと?」

 もう、それはいいから!

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