第13話 刺客との遭遇1
馬車に戻ると、マデリンがほっと息をついたのが分かった。
「戻った? やっと気が抜ける」
「悪かった。で、敵さんは?」
「今は消えてる」
そう言うと、マデリンはジャスパーに言う。
「やっぱり可愛い」
「ありがとう。マデリンのメイド服もカワイイ」
一瞬でのけ者になった俺は、黙々と荷物を載せる。
「乗せたぞ、次は市場か……」
俺がゲンナリしてると、二人は満足しあったのか俺に見解を言う。
「たぶんそこまで行けば、悪さをしてこないと思う」
「ジャスパーも同意。今は殺気を感じないから」
「君ら、そう言うのは先に言おうね?」
俺がそう言うと、二人とも無視しやがった。
大丈夫か、俺パーティ。
ふと俺はユウシャーはこんな状況でも「なんとかしたのか」なんて馬鹿な考えを抱いた。
マーケットは夕方という事もあり、混んでいた。
往復2日とは言え、それなりの物資は必要だろうとのことで、テキパキとマデリンが購入していく。
彼女は伊達や酔狂でメイドの格好をしているのではなく、本人が言う事を信じるのならば世界で一番「出来るメイド」のためらしい。
腕っぷしの方が勝ってないか? と俺は訝しんでいるが、家事の腕は本物なので黙っておいた。
「……せっかくの自由なのに、かごの中の鳥ね」
ジャスパーもマーケットに行きたがっていたが、俺とマデリンの共通の見解としてお留守番が決まっていた。
行きの空荷ならいざ知らず、武器を山ほど積んでいることに加え、ジャスパーがフル装備で目立つことを避けた形となる。
荷物持ちの俺は、麻袋を山ほどぶら下げつつ、マデリンへと問う。
「もう、戻ろう」
「ん……ごめん、熱中した」
野菜の目利きで店主とレスバ(転生者の言葉だ)していたマデリンは、自覚あったのか詫びる。
「あとは、作戦を練ってだが……」
俺がそう言うと、馬車禁止のマーケットの中へと、一台の暴走馬車が突っ込んできた。
意匠からして貴族の持ち物である4頭立てのそいつは、慌てふためく客らを無視して、俺らの方へと近づく。
「おい、ちょっとアレ」
「警戒」
「すりこぎ」を握りしめ、マデリンが構える。予想通りと言うか、馬車は急停止。
……そのまま客室から青い髪の女性が転がり落ちるように出て来た。
その人物である、セラフィラ嬢は軽装のまま俺らに言う。
「ああよかった! 二人とも、探しましたわよ!」
「セラフィラ嬢?」
俺らがたじろぐと、彼女は言う
「事情が変わりましたわ………どうにも別の家が…」
彼女が言い切ることは無かった。
雑踏に潜んでいた刺客が銃弾をぶっ放したからである。
突然の銃声ではあったがマデリンが動いていた。
「危ない。急ぐ!」
すりこぎで鉛玉を叩き落すと言う神業を披露しつつも、ソレを誇ることなく彼女は俺らを促す。
「ちょっと! マデリンさん? 逃げるなら、我が家の馬車で!」
「黙って! 伏せる! クリストファ! 特典!」
自らの馬車へ戻ろうとしたセラフィラ嬢をマデリンは引き止め身を屈めさせる。
俺は言われるがまま、特典を発動する。
―――次の瞬間、馬車に火属性の大魔法が突き刺さった!
馬が棹立ちになり、御者は吹っ飛ぶ。そのまま爆炎を上げて馬車は横転した。
「ぶ、あっちい!」
火の粉を浴びた、俺は悲鳴を上げつつも、荷馬車へと走り出す。
遅れてマデリンが続く。彼女は腰が抜けたセラフィラ嬢を背負って俺に併走する。
「クリストファ! 攪乱!」
「てめ、糞冥土! ナチュラルに無辜の市民を巻き込もうとするんじゃない!」
暴言を交換しながらも、俺は後ろを見る。
追っ手は現状二人。俺は周囲に聞こえるように言った。
「大変だ! お家騒動だ! 姫様を賊が殺そうとしている! 誰か助けてくれ!」
特典が発動するが、やはり場当たり発動だから効果が薄い。
……一度は不特定多数かつ条件が微妙過ぎてダメかと思ったよ。
だが、義侠心からか多数の市民が追っ手へと殺到する。
「結局やった! クリストファの嘘つき!」
「協力のお願いだよ!」
走りながら俺らは言い合い、そのまま荷馬車の荷台へと飛び込む。
ジャスパーはソレに顔色一つ変えず、大楯を手にしていた。
「面倒だけど、出番なの?」
「頼む!」
俺はそう言いつつ、マデリンを見る。
彼女はセラフィラ嬢を叱咤してから御者席へと滑り込む。
「セラフィラ嬢! 呆然としてちゃダメ! クリストファ!」
「わーってるよ!!」
俺は、矢玉の入った木箱のてっぺんをかかと落としで壊しつつ矢を露出させる。
そのまま俺は弓を手に取る。
反動が怖いが――――今は役を降ろすしかない。
この土地で伝説として語られる弓兵を俺は選んだ。
「【我は我にあらず、我はこそは大衆大願の鏡――】」
正式に俺は呪文を唱える。
正規の特典の起動に、特典自身が狂喜する。
必要な役を魔力で引っ張り出した俺は、ジャスパーとマデリンに言う。
「マデリン、かっ飛ばせ! ジャスパーは飛んで来るの全部落とせ! セラフィラ嬢に一発も届かせるな!」
「承知!」
「分かったの!」
ひときわ大きく聞こえた鞭の音と共に、荷馬車は弾けたように飛び出した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます