第12話 物資を求めて

 荷馬車だけあって広かった。

 でもって武骨でごっつく、蛮用前提なのも悪くない。

 そう、現実逃避をしながら俺は待っていた。

「クリストファ、次」

 何故、女性の買い物は長いんでしょうかね?

 武器屋から出て来たマデリンと、ジャスパーはまだまだ粘るらしく、次の店に行けと俺を急かす。

「はいよ……」

 気が重くなりながら、俺はそう答え冥土に質問する。

「ところで、俺の武器は?」

「買ってない」

「なんでよ!」

 御者やりながら俺が文句を垂れると、俺の特典を知るマデリンが言う。

「最悪安物でも行ける、違う?」

「違わねえけど」

「ならそうすべき」

 やり込められた形となった俺だったが、そこにジャスパーが追い打ちをかける。

「ご主人様、ジャスパーが一番装備を固めるべきだと思うの」

「……そうっすね」

 騎士装備は高い。

 目ん玉飛び出るほど高いのが武器鎧だが、その中でも騎士の鎧と大楯は金と命を賭けるから生半可な物ではいけないだろう。

 第一、こうして店巡りをしているのも、本来はオーダー品であるそれらを入手する為、やむを得ずと言う側面があった。

「次は期待できる」

 そう言ってマデリンは番地を告げる。

 だが、直近その近くでやらかした俺としては顔が引きつるのがわかった。

「スラムじゃねえか」

「ジャスパーは、実戦経験した武具がいいと思うの」

 地雷が空気を読まずそう言ったのと、マデリンの無言の圧力もあり、俺は渋々その店へと馬車を勧めるのだった。



 『蛇の移動屋台』の近くに、その武器屋はあった。

「なんつー、罰当たりな」

 元は教会だった廃墟をそのまま使用しているらしい。

 本堂は半分崩壊していたが、どうやら店舗そのものは聖餐用の酒蔵に拵えているらしい。

 いかにも怪しいと言う店へ、二人は意気揚々と下りて行った。

「マスターにそういや、詫びれてないな……」

 そう俺が思い出すと、何故かマデリンだけ馬車へと戻って来た。

「どうした?」

「交代。ここは当たり。いいのがあった」

「いや説明になってないよ…」

 俺が言うと冥土は袖口から「すりこぎ」をのぞかせ言った。

「ちょっとキナ臭いから私が見てる。クリストファも武装してきて」 


―――勘、と言うのは馬鹿にされがちである。

 

 博打を例に出すまでなく、怪しけるものだからだ。

 だが、修羅場をくぐった冒険者ほど、そうした勘やゲンを疎かにしない。俺はマデリンが本気で言っていることに気付くと、御者台から下りる。

「大丈夫か?」

「今は問題ない、なるべく早く」

 俺は頷くと、地下室へと降りることにした。



 地下で埃っぽいかと思いきや、掃除は行き届いていた。

 だが、膨大かつ雑多な武具類が散らかっているとの印象を抱かせた。

「いらっしゃい」

 目の落ちくぼんだ店主を見て、俺はあっと声が出そうになった。

 失礼だと分かっていても、俺は彼に質問した。

「あの、先日ご迷惑をおかけしませんでしたか?」

「はい? お客様とは初対面ですが」

 俺は胸をなでおろす。

 だって他人とは思えないほど、店主はマスターに似ていたからだ。

「あ、もしかして弟が言ってた非常識な冒険者」

 俺は申し訳なさを感じた。

「御兄弟でしたか……すみません」

 俺が言うと、店主は言う。

「ま、場所が場所です。弟もたまにはあると許していましたよ」

 ほっとした俺に、ジャスパーの声がかかる。

「ご主人様? よかった、見て欲しいの」

 そう言われ、俺は声の方向を見た。

 フィッティングルームが併設されていたらしい。壁際のそこから、完全装備のジャスパーが出てくるが……俺は頭を抱えたくなった。

「それ……姫鎧じゃん」

 体のラインがモロ見え、ひらひらフリフリ装備である。

「でも、可愛いよ?」

 説明しよう、姫鎧とは姫君向けのネタ装備である。

 尚武の気風を忘れないと、やんごとなき方々が着るもので……ハッキリ言えば使えないハッタリ装備である。そもそもコスチュームプレイ用のアイテムである。

 見栄えの為に軽量化されているから、強度や防御力は二の次と言うアレ装備である。

「いやだからって…」

「あ、下にレザーアーマーと、鎖帷子着てる」

 俺は言葉を飲み込んだ。

 今、なんて言った?

「重くない?」

「全然?」

 随分鈍い色のスカートだと思ったが、どうやら鎖帷子らしい。

 鎧を二枚着こむのは珍しくないが、三枚着こんで平然としているジャスパーに俺はひそかに恐怖を抱いた。

 こんなのがゴロゴロしている『徒花の騎士』や『葦原百騎』ってなんなんだ、と。

「とりあえず、鎧は大丈夫か? 武器は? 盾は? 予備は?」

「ん……デザインがちょっと嫌だけど、これ」

 ジャスパーがフィッティングルームの一角を指さす。

 見れば、どす黒い染みの残る(血痕です、ありがとうございます)タワーシールドと、真鍮製の大ウォーハンマーがある。

「振れる?」

「かなり軽いくらい」

 ナチュラル脳筋発言を俺は都合よくシャットアウトしつつ、彼女はサブウエポンの長剣と馬上槍ともども購入を決定した。

 あと割引ということで馬鎧も押し付けられた。

 ジャスパーが支払いを行っている間に、俺も自前の武器を調達することにした。

「剣は分かるけど……連弩? ソレに弓?」

 支払いを終えたジャスパーが不思議そうな顔で、俺に聞いてくる。

 まあ、疑問は分かる。

 剣は鋳物のモノだし、鍛造のものはレイピアだ。あとネタ武器として銃器の下に見られる連弩を買ったのも理解できないようである。

「ま、念のためさ」

 そう言いつつ、俺も支払いへと向かった。

 店主は買い物には突っ込まなかったが、一応聞いて来た。

「矢はどうするんだい?」

 俺は逆に店主に聞いた。

「あるだけ、買えるだけ欲しい」

「……そんだけの矢玉、何に使うんだか」

 そう言いつつも、店主は用意してくれた。

 有難いことである。

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