第11話 黒一点の暗黒微笑の絶えないパーティです

 その後、ブルーク氏のご厚意に乗る形で奴隷を見せてもらったが……俺から見ても冥土から見ても条件を満たす人間はいなかった。

 そもそも要人警護がこなせる様な騎士の奴隷が少ないことに加え、モラルだの考えると、元徒花の騎士であるジャスパー以外に候補がいなかった。

 こうして俺は、悩みに悩んでジャスパーの購入……と言うか貸出を決定した。



 ブルーク氏に礼を言って、結構な金を払った。

 満額での購入が出来なかったので、一時的に借り受けたと言う。

「貴方が、ジャスパーのご主人様?」

 で、屋敷の一室を借りて開口一番これである。

 冥土に小突かれながら、俺はこの地雷黒髪少女に言う。

「正しくは今回だけ、だ。仕事が終わり次第戻す」

「そうなの残念。声は好みなのに」

 顔はあかんのですね?

「で、早速だが仕事を頼みたい」

「何したいの? ジャスパーの力が必要なの?」

 俺は魔王討伐と、俺らの護衛を手短に伝える。するとジャスパーは言った。

「問題ないと思うの。ただ」

「ただ?」

 俺が聞き返すと、ジャスパーは言った。

「ジャスパーの鎧と盾は?」

 まあ当然のことである。俺はちょっとホッとした。

「これから購入する、物資と共に」

 俺がそう言うと、マデリンが疑問をぶつけて来た。

「クリストファ、足は?」

「マルシアに頼んだ」

「吝嗇のところ? 駄馬なら怒る」

「ペガサスだよ!」

 俺が言うと、マデリンは納得する。

「ならいい」

「ジャスパーも、ペガサスは久しぶり」

 食い気味でジャスパーもそう言うと、何故か両者はじっと見つめあった。

 やああって、冥土が口を開く。

「男は?」

「声、顔、金」

「色男と俳優は?」

「眺めて愛でるべし、なの」

 そうして二人は握手を交わす。

「おい、宗教問答みたいに変なことを言うな!」

「クリストファはもっと有意義なことを言おう? その声で糞なこと言うとクリストファの品性を疑う」

「ジャスパーもそう思うの」

 仲いいな、お前ら!

 何故か俺は徒労を感じつつ、言った。

「残り時間も少ない、マルシアんところへ行って荷馬車借りてから買い出しだ」

「ん」

「承知なの」

 当面の方向性を俺が決めると、ふと思い出したようにマデリンが言った。

「あ、クリストファ」

「ん?」

 何か言いたいことがあるのか? 俺はそう思った。

「図らずもハーレムパーティだけど、勘違いしないで」

「ストレートにキツイ意見をありがとうよ」

 俺は頭痛を覚えつつ、そう返した。



 俺らは荷馬車を借りに『天国の絨毯』に向かった。

 マルシアは相変わらず帳簿を見ていたが、俺一行に気付くと視線を上げて目を見開く。

 眼鏡をはずして、布で拭って……おい、地味に傷つくぞ。

「クリストファ、お前、何時からヒモになった?」

「ちげーわ! 今回の面子だよ!」

 俺が言ったのを受け、マデリンが同意する。

「私も否定する。クリストファがヒモとか、女の格が疑わる」

「ジャスパーも、他の娘にマウント取れないから嫌」

 けちょんけちょんに言われた俺を見て、マルシアは哀れむように言った。

「可哀そうにな。ああ、私も同感だ。絶対馬鹿にされるからな」

「お前らさぁ……」

 とい言いつつも俺は気持ちを切り替え、マルシアに依頼する。

「買い出しで、荷馬車を借りたい。行けるか?」

「行ける。けど、値引きは無しだ」

「そこは勉強してくれって……無理か」

 俺は馬丁の数が目に見えて少ないことに気付いて訂正する。

「分かってるならいい。取り消さなかったら馬で蹴飛ばしてやってた」

「ケガするし、最悪死ぬわ」

 そう軽口を叩きあいながらも、マルシアは帳簿を付け、伝票を書き上げる。

「老いた馬だが、一頭空いてる。そこそこ速いぜ」

 伝票を俺は受け取ると、質問する。

「御者は?」

「出来る癖に聞くなよ」

 はいはいと俺は伝票にサインする。

「そういや、役者の」

「なんだよ」

「面子はこれで全部か?」

 マルシアに俺は堪える。

「あと一人、貴族の御姫様が来る。安心しろ、多分実力はある」

「ならいいが……お前、この前のスラムみたいにトラブル起こすなよ?」

「な、わけあるか」

 俺はそう言うと伝票を奪い取る。

「じゃ、買い出し終わったら戻るわ」

「ああ、こっちもペガサス出して暖気してる」

「よろしく、じゃマデリン、ジャスパー行くか」

 俺が言うと、ジャスパーがじっとマルシアを見ていたのに気づく。

 流石にマルシアも気づいたらしく顔を上げた。

「ねえ、貴方。いい男って? ジャスパーに教えて」

「金、権力、声の順」

「ならジャスパーも仲良くできる」

 地雷とケチの間で何があったのか。

 意外と気が短いマルシアは何も言わず、逆にこう言った。

「私も大丈夫だ」

 あっけにとられた俺は、マデリンに小突かれた。

「これが女子」

「理解出来ねえ……」

 俺は無性にオレガノのおっさんと馬鹿話したいなと思った。

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