第10話 タンク職でくせつよな女子

 俺一行に、お姫様が加わった。

 勇者パーティー経験者だけあって回復は任せて欲しいとのコトである。

「クリストファは奴隷商人に、なんで会いに行くの」

 冥土を連れた俺は、ブルーク氏の商館目指して貸切った辻馬車で移動していた。

 そんな中での、冥土の発言である。

「護衛役だよ」

「なるほど。確かにお姫様が同行するなら必要」

 そうマデリンは納得するが、しかし首を傾げた。

「でもクリストファが頑張れば不要……?」

「忘れてるのか? 俺の特典が刺さるのは人型または知恵があるやつだけだぞ」

 演技系の特典が戦闘で貴ばれない理由の一つだ。

 情動に働きかけると言う、そもそもの演劇系特典の権能上、人から離れるほど特典は刺さらない。

 そして悲しいかな、演技系の特典=名役者でないこともあり、普通は対人でも効果が薄い。王立劇場の役者の演技を見たことあるけど、すごかったもんな。

「嘘つき。クリストファは隠し玉がある」

 以前の依頼で俺の特典の応用を知るマデリンが指摘してきた。

「……やりたくねえんだ、アレ」

 俺は「魔王なら」、確実に殺せる確信がある。

 だが、ノーリスクでソレが出来るかと言えば違う。

「なるほど。だったら壁はいてもいい」

「その壁が良ければいいんだが」

 セラフィラ嬢におねだりして資金は増えたが、俺は戦闘奴隷が楽に手に入るとは思っていない。

「なんとかなればいいんだが」

 そう俺が呟くと、御者がそろそろ到着すると俺らに告げてきた。



 ブルーク氏の商館は圧巻であった。

 扱う商品が商品だけに、デカい金と利権があるのだろう。

 貴族の邸宅と言っても通じそうな、屋敷に俺らは通された。

「久しいな、君」

「ご無沙汰しております。先日は醜態をお見せしました」

 ブルーク氏が直々に接客してくれるらしい。

 彼は一瞬マデリンに視線をやったが、すぐ俺に戻した。

「以前、君は【徒花の騎士】と言ったね」

「はい、そうですね」

「それは変わってないかな?」

 俺はおやっと思った。

「いえ、護衛役であれば気にしませんが……」

 ブルーク氏は「丁度いい」と言うと、俺らに言った。

「君の要望を全て満たす奴隷が入荷している」

 俺はマデリンを見た。

「怪しくない?」

「気を使ってくれたのかもしれない」

 小声で会話を終えると、俺はブルーク氏に言った。

「では、会わせてください」

「うむ。こちらだ」

 そう言ってブルーク氏は、移動する。

 見たことあるような鉄格子の扉を前にして、俺はなんだかとっても嫌な予感がしてきた。

 一方ブルーク氏は、商品のセールストークを行う。

「性別は女、年は17。奴隷化の理由は、借金から。経歴は神殿騎士からの徒花の騎士への転向。大楯使いですが、騎士として武芸は馬上槍、長剣とウォーハンマーを修めているとのこと。見目は良い。欠損なく、体調も良好。病や呪いの履歴もなし……となっている」

 聞くだけなら、とんでもない人物である。

 でもお高いんでしょう? と俺が視線をやるとブルーク氏は、部屋を指さす。

「だが、問題がある。見れば分かる」

「拝見します」

 俺が視線をやると……部屋の中には確かに貫頭衣の黒髪ロングの若い女がいた。見目がいいとの評価は間違ってない。が、彼女が口にしている内容が最低だった。

「はぁ………この前の公演でジュブさまが死んじゃった……ジャスパー、死にたい」

 俺は無言でマデリンにも彼女を見せた。

 マデリンが珍しく渋い表情を作る。彼女は、躊躇いながら言った。

「ジュブさまはおそらく、演劇『負いしウェルケルの衝動』のジュブベイルのこと」

「芝居狂いか?」

 俺が言うと、ブルーク氏が目を細くした。

「熱心な俳優の追っかけ、そして狂信者と聞いている」

 俺は嫌な予感がした。

「えっとブルーク氏、もしかして………彼女、死にたいとか言ったり構ってほしかったりとか……無類のイケメン好きですか?」

「概ねその理解で間違いない」

 俺はブルーク氏に言った。

「保留で」

「クリストファ、その言い方ヘン。娼館初めての客みたい」

 うるさいよ。

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