第31話

「颯太はさ、私のことどう思ってる?」

「どうって……、大事な友達だけど」

「それだけ?」

舞雪の目が涙で潤んで、ふるふると瞳が揺れている。


「好きとか恋愛とか、俺にはまだよくわからないから」

「……そう」

舞雪は伏し目がちに頷くと、気を取り直したようにパッと顔をあげた。ケアした直後らしい髪が艶やかに揺れて、むせ返るほどの女子の匂いが部屋を舞う。


「スマホ借りていいか?」

「いいわよ」

「どこにあるの?」

「ポケットのなか」

舞雪はショートパンツの腰を突き出した。


「貸して」

「いいって言ってるじゃない」

「いや、そうじゃなくて」

「いらないの?」

「渡してくれよ」

「欲しいなら自分で取ればいいじゃない?」


「ふざけてないで早く」

「あら、私は真剣よ?」舞雪は挑むような目で俺を見つめた。「友達なら、変な気を起こしたりしないでしょう?」

「いいんだな……?」

「早くしないと戻れなくなるわよ」

「……ったく、あとで文句言うなよな」

俺は平静を装って、舞雪の腰に手を伸ばした。太もものあたりがスマホの形に膨れているが……、これってほぼ股のあいだなんですけど……。


「あれれー? 友達なのに意識してる?」

「はあ? 誰が!」自棄になって手を突っ込むと、

「ひゃんっ!」舞雪は妙に艶っぽい声を漏らした。


「変な声出すなよ!」

「だ、だってぇー、颯太が強引だから……」

舞雪は顔を赤くして、もじもじと内腿をこすりあわせた。耳まで真っ赤にしているところを見ると、単にからかっているだけではないようだ。


「わるかったな。ゆっくりやるから、次は絶対に変な声出すなよ」

「わかったわ……」

舞雪はなぜか泣きだしそうな目でこくんと頷いた。

俺はゆっくり手を伸ばして、舞雪のポケットに手を突っ込んだ。そのままスマホを引き出そうとするが、思いのほかポケットがきつくてつっかえてしまう。


「んっ……、あっ、ちょっ……颯太ぁ?」

「なんだよ」

「そんなに動かしたらくすぐったいわよ」

舞雪が腰をくねらせてムズムズと動く。

手がポケットのなかで、絡め取られるように奥へ進んだ。

まったく、まともに付き合ってたらこっちがもたない!

意を決してスマホを一気に引き抜こうとすると、! とスマホが振動した。


「あうぅっ……」

舞雪が体をびくつかせて、俺の体にしがみつく。耳元に吐息がかかって、俺のほうまでおかしくなってくる。


「大丈夫か?」

「ごめんね、また変な声出しちゃった」

「悪いけど、ちょっと離れてくれる?」

「う、うん」


舞雪が俺から離れようとすると、またスマホが振動して、

「ひゃんっ……!」

膝から崩れるように俺に抱きついてきた。

「ユキー? 大丈夫?」

扉越しにバスルームから、斜森さんの声がする。


「ヤバっ、斜森さん?」

「隠れて!」

バスルームの扉が開く。舞雪は俺をベッドに押し倒すと、素早く二人の体に布団をかぶせた。俺の腰を舞雪が跨いで、マウントポジションで抱き合うような体勢になる。ムッチリすべすべした感触と、肌をくすぐる艶やかな黒髪。直に伝わる相手の鼓動に、いよいよ理性の糸が切れそうになる。


「ユキ? どうしたの?」

「お、お腹が痛くて」

「大丈夫? ロキソニンならあるよ?」

「ありがとう。すぐに治まると思うわ」

斜森さんが隣のベッドについて、テレビをつける気配がする。


「……なんで隠れるんだよ?」俺は声を潜めて舞雪に訊いた。

「……仕方ないでしょう? 事故とは言えあんなことしてたんだし」

「このあとどうするんだ?」

「どうしようかしらね?」


――ブゥ~ッ! ブゥ~ッ! ブゥ~ッ!


舞雪のスマホが連続で振動する。

すぐ近くで斜森さんのスマホも、せわしない通知音をあげた。

「うはっ、クラスのグループだね。こっそりスマホ持ち込んだ子たちが、みんなで写真を送ってるみたい」


ブゥ~ッ! ブゥ~ッ! とまたスマホが振動する。舞雪はそのたびに俺の耳元で、「……あぅ」「……ぅんっ」と湿った息を漏らした。


「……おい、舞雪?」

「ご、ごめんなさい、……っんぅぅ」

「変な声出すなって」

「ごめんなさい、本当にごめっ……んっ」

舞雪が俺の上で、必死に体を固めているのが伝わってくる。


「大丈夫か?」

「……ねえ、私のこと嫌いになった?」

「そんなわけないだろ。てか今はそれどころじゃ……」

さっきから澄ました態度で対応してはいるが……、こっちはこっちで舞雪のエロい声と、股間に伝わる振動に、もうとっくに限界が近い。


「ねえ? もしかして颯太も、なんか腰のところ、ビクビクしてる?」

「訊くなっ!」


舞雪が腰を密着させるように俺を抱く。気のせいか股間の圧迫感が強くなって、ブゥ~ッ! ブゥ~ッ! とスマホがさらに振動して……、ムズムズした快感が、体を突き抜けて爆発しそうになる。


「……まっ、舞雪、ちょっと離れろ」

「む、無理よ」

「でも!」

「もしかして、……その、限界なの?」

「…………」

「しょうがないからそのまま出して。ぜんぶ出しちゃえば落ち着くんでしょう?」

舞雪は俺を押さえ込むように強く抱いて、もぞもぞと腰を動かした。


「……舞雪っ?」

「……うっ、うぁぅっ」

「……出るって」

「……いよ、だぅっ……して」

「……マジで出……ま、舞雪っ」

「私も、あっ、……颯太ぁ!」

切なげな吐息とともに、舞雪がビクビクと痙攣する。

まるで吸いあげられるように、俺の体も波打った。


「ねえ、ユキ? ちょっと何してるの?」

斜森さんは笑いながら、俺たちのベッドの布団をめくった。

「わっ、ちょっと? 二人とも何してるの?」

斜森さんは顔を真っ赤にして俺たちを見つめた。


「斜森さん、これは違くて」

「反射的に隠れたら、出てくるタイミングがわからなくなったのよ」

「へ? そうなの? べつに隠れなくてもいいのに」

「あはは、それもそうよね」

舞雪が俺から離れて起きあがる。


「はいスマホ、美雨に電話するんでしょう?」

「ああ、ありがとう」

 俺は舞雪からスマホを受け取ってベッドをおりた。

「気をつけて戻るんだよ。見回りの先生に捕まったら、『佐野先生に腹イタの薬をもらいたくて』とか言えばいいから」

「なるほど」

「さすが不良ね」

斜森さんのアドバイスに、俺と舞雪は二人して感心してしまった。


「じゃあまた明日、二人ともありがとね」

「おやすみ、スマホはちゃんと充電しておいてよね」

「気をつけて戻るんだよ」

女子二人に送り出されて、俺は自分の部屋に戻った。

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