第19話
そうして向かったのは、駅前にあるイケイケのクラブ――ではなく、線路沿いにあるさびれたゲーセンだった。
オーナーの趣味なのか予算の問題なのか、やや時代遅れの機種が豊富に並んでいる。それもインベーダーとかパックマンとかいった古代の遺物ではなく、『ダンス・ダンス・レボリューション(初代)』や『タイムクライシス3』といった最も熱い時代のラインナップだ。
駐車場の片隅に自転車をとめて、すべりの悪いガラス戸からなかへ入ると、騒音と煙草の匂いが俺たちを包んだ。舞雪は麻雀や格ゲーのコーナーには目もくれず、まっすぐに音ゲーのエリアへ歩いた。
二人でダンレボの台にあがって、一枚ずつ百円玉を入れる。足元の矢印を踏んで、舞雪が最初に選んだのは、『恋のブンブンダラー』――かなり激しめの曲だった。
「そんな短いスカートで踊ったら見えるぞ?」
「何が見えるのよ?」
「……わ、わかるだろう?」
俺がもごもごと言うと、舞雪はいじわるな笑みを浮かべた。
「見なければいいでしょ? どうせ颯太しかいないんだから」
「盗撮されても知らないぞ」
「はじまるわよ」
――Ready! Here we go!!
ご機嫌なイントロに乗って、矢印が流れてくる。左、右、上、下、上、右、下、右……。舞雪は翻るスカートを手で押さえながら、リズムに乗って跳ねるように踊った。おもむろにヘアゴムを口に咥えて、ステップを踏みながら髪を束ねる。俺は背後のバーに捕まりながら、必死に彼女の相棒を務めた。
ペアダンスでもなんでもないし、そもそも単なるゲームなのだが……、同じ画面を見つめてリズムに乗っていると、きちんと一体感を覚えるのだから不思議だった。
「次は?」
舞雪はダンレボの台を降りると、制服のリボンを引き抜いて襟をはだけた。ほんのり汗ばんだ胸元と甘い匂いにめまいがする。
「あれ行こう」
俺は舞雪のスクールバックを引き受けて、ガンシューティングの台へ歩いた。
それから俺たちは、テロリストの脅威から世界を守り、パンチ力を測定して、最後に二人でプリクラを撮った。
「ほら、もっと寄りなさいよ」
舞雪は人の目がないのをいいことに、俺の腕に組みついて、まるでカップルごっこみたいなことをはじめた。二人きりのときにはこういうノリも珍しくはないが……、腕に押しつけられたやわらかい感触に、頭がどうにかなりそうになる。今ならたとえハグをしても、すんなり許されてしまいそうで。
「大地に殺されちゃうよ」
「べつに二人とも友達でしょう」
「まあ、な……」
ラクガキスペースへ移動すると、舞雪はちょっとセンシティブな俺たちのプリクラに、〈親友♡〉〈ズッ友〉〈我等友情永久不滅!〉などどこか平成臭いラクガキを入れた。
「もし颯太が美雨と付き合ったら、こういうこともできなくなるのかしら」
完成したプリクラをちぎりながら、舞雪はぼそっと呟いた。
「俺が山下さんと?」
「好きなんじゃないの?」
「どうかな」
「何それ」
舞雪は、ドン、と俺の胸にプリクラの半分を押しつけると、出口へ向かった。
「まだ明るいわね」
「ほんとだ」
俺は背後からガラス戸を開けて舞雪を通した。
「ねえ颯太、ケーキ食べたくない?」
「食べたくない!」
「いいじゃない、たまには顔を見せないと」
舞雪はいじわるな笑みを浮かべて言った。
そんなわけで、俺たちは再び自転車をこいで、駅近にあるカフェに来たのだった。
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