第10話

山下さんに瞳術をくらってボコされた挙句、五限にも見事に遅刻したが……、事情を知る担任は目をつぶってくれた。大地と舞雪と斜森さんが、机同士をくっつけて、観光ガイドを広げている。修学旅行の班行動について、話し合っているらしかった。


「おう颯太、座れ座れ」

大地は隣の空席を叩いた。普段から俺が使っている机みたいだが――、山下さんの分はない。もし彼女が来ていたら、どうするつもりだったのだろう?


「颯太はどこか行きたいところある? 向陽は浅草に行ってみたいって」

舞雪はガイドブックを差し出して言った。

「絶対ってわけじゃないよ? ルート的にもちょうどいいし、ほかにめぼしい場所がなければ」

「舞雪と大地は?」俺は大地の横の席に座った。

「本当はお買い物に行きたいんだけど、ショッピングは禁止なのよね」

「俺はスカイツリーを見てみたくて」

「スカイツリーならソラマチもあるから、気分だけでも味わえるかなって」

舞雪と大地は口々に言った。

斜森さんも、伏し目がちに頷いている。


「俺はいいけど、山下さんは行きたいとことかないのかな?」

「え、美雨、参加できるって?」

舞雪は目をみはって俺に訊いた。

「まだわからないけど、勝負にも負けちゃったし」

「勝負?」大地が首をひねる。


俺は昼休みの顛末を三人に話した。

「それってデートのお誘いなんじゃない?」舞雪はしかめ面で頬杖をついた。

「颯太がデートだと?」大地が驚きの声をあげる。

「いやいや、そんなんじゃないから! なんか綺麗な場所に行きたいって」

「デートじゃない」舞雪が言って、

「デートだな」大地も当然みたいに頷いた。

「いやいやっ」

助けを求めるように斜森さんを見ると、


「それは……、デート、だね」

彼女はピアスを触りながら呟いた。

「え、デート、なの?」

自分で発した「でえと」の響きに、みるみる鼓動が早くなる。


「デートするなら、それなりの服が必要よね」

舞雪が茶化すような目で俺を見つめる。

ガハハ、と大地が豪快に笑った。

「こいつの私服はヒドいからな」

「なんだと?」

「向陽に選んでもらえばいいのに」

「え、私?」

困惑気味に訊き返す斜森さんをよそに、

「だな」

大地は舞雪の意見に同意した。「せっかくそばに、オシャレ番長がいるんだし」


「おいおい、勝手に話を進めるなよ」

斜森さんの反応を窺っていると、目が合った瞬間に、ぱっと顔をそむけられた。

「な、斜森さん?!」


舞雪と大地が、ぷっと吹き出して爆笑する。

「あらら、嫌われたわね」

「傑作だ」

二人は無責任に笑い続けた。

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