第6話

思いのほか、花憐はすぐに納得してくれた。

大地につけられた傷と佐野先生の手当のあとが、思いがけない証拠になった。

これこそ怪我の功名である。


花憐は俺を気遣って、洗濯と風呂掃除を代わってくれただけでなく、舞雪の服の洗濯も請け合ってくれた。なんとよくできた妹だろう。

おかげで昨日は日々の雑事から離れ、ゆっくり眠ることができた。


今朝はいつになく目覚めがいい。

男子の健康のバロメーターも、ガッチリと振り切れていて。今日は舞雪の服も持っていかないとだし……

俺はそっと体を起こすと、布団のなかでズボンをおろした。


謎の罪悪感に苛まれながら、脳裏にちらつく舞雪のイメージを振り払う。ティッシュの箱を手元に寄せて、準備を整えると、


「おにいちゃーん! おはよー」


唐突に部屋のドアが開いて、花憐が洗濯したキャミソールを届けにきた。


「お、おはよう」

俺は咄嗟にティッシュの箱ごと、下半身を布団で覆った。


「あれれー? おにいちゃん、もしかして男の子の日だった?」

花憐がニヤニヤと意地悪な笑みを浮かべる。


「男に生理はないぞ、妹よ」

「そんなことないよ。そりゃ女の子は大変だけどさ、男の子だって、体のなかで毎日つくられるものがあって、『いやらしいって思われがちだけど、定期的にちゃんと出してあげないといけないんですよー』って保健の先生も言ってたよ」

「配慮は嬉しいけど、今、着替えてるとこだから」

「そんなこと言って、ほんとは男の子の日だったんじゃないの? 頼まれてたキャミ、洗っといたよ。ここに置いとくけど……、その、汚したりしたらダメだからね?」

「早く出ていけ!」

「冗談だってば! もう、そんなに怒らないでよ。て、……え、もしかしておにいちゃん、本当にしてる最中だった?」


俺は否定も肯定もせず、無言で花憐を睨みつけた。


「……へっ、ごっ、ごめんなさい! どうぞごゆっくり!」

花憐は顔を真っ赤にして、扉を閉めて出ていった。

やれやれ……。

俺は舞雪の服を鞄にしまうと、もろもろの仕度を済ませて家を出た。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る