第3話 登録に際し入会費を頂きます

「ええっと…大変申し上げづらいのですが、冒険者適正のある技能によって冒険者ギルドとは別に技能ギルドへの登録が必要となっております」


受付嬢はそう言って厚い紙の束を取り出した。


「例えば盗賊シーフ技能に適性がある方は盗賊ギルドの方にも登録していただいています。名前こそ盗賊とつきますが、実際には迷宮内の宝箱の開錠や、魔物の蓄えた宝を取ってくるなど、あくまで迷宮に関わる盗みだけにとどめ、一般的な『盗み』を国内で行わないことを表明するために盗賊ギルドへ入る必要があるわけです。こちらの登録に入会費として金貨1枚が必要です」


私は小盾バックラーを買うために使うつもりだった金貨を取り出した。


死霊使いネクロマンサーは人間の死体を使わずあくまで魔物の死体のみを素材として用いることを誓うためにギルドに入っていただく必要があり、魔神使いデーモンサマナーは異界の魔神をみだりにこの世界へ解き放たないように戒律を守る旨をギルドへ誓約しなければなりません」


怒涛の勢いで、私の財布の中から金貨が減っていく。


「お疲れ様でした。以上でアリサ様の各種ギルドへの登録手続きは完了です。足りない分の登録料に充てるため、ロングソードを下取りに出させていただきますね。それではあちらの依頼掲示板から受けたい依頼を探して、奥の受付へお進みください」


武器の無い戦士が受けれる依頼などあるはずもなく、私は依頼掲示板の前で途方に暮れていた。

魔法職として働くことも考えたが多くの魔法系統が杖などの発動体アイテムや、召喚供物などの触媒アイテムを必要とする。当然、それを買う金はない。


レベル+1チートで戦士ファイター以外のあらゆる未修得レベル0の技能がレベル+1されて、すべての技能を得ることになったのは完全に予想外だったし、そのせいで素寒貧になるなんて……黒蓮の女神を思い出し私は唸る。

派手だが落とし穴のあるチートを選ばずに、堅実な特典を選ぶことで意地悪な女神を出し抜いた気になっている私の失敗を見て、たいそう気分が良くなっているに違いない。


私は自分の冒険者記録用紙に小さな文字でぎゅうぎゅうに詰め込まれたレベル1技能に目を通しなおす。

何か、ひとつくらい役に立つ技能があるはずだ。


さほど時間をかけずに答えは見つかった。

格闘家グラップラーレベル1。

徒手空拳での近接戦闘を行うこの技能であればロングソードを下取りに出してしまった今の私でも戦える……!


方針が定まった私は依頼の掲示板へと向かう、その中で格闘家グラップラーレベル1で受けられる依頼は……デスシナリオとして有名なだけであった。

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