第4章

 さて、こうして一瞬の内に三か月が過ぎました。運命の日、千佳も含めた三人が夏休みの誰もいない学校に集合しました。

「えっと、どうして私は呼ばれたんでしょうか……?」

 千佳が困惑した表情で尋ねます。友達になったとはいえ二人は学校の女王です。その女王がこうして二人そろって自分の前にいるのは奇妙なことでした。

 しかも、先ほどから二人の間には妙な緊張感が漂っています。二人ともお互いの腹の内を探ろうとしているようでした。

 先に動いたのは冬子の方です。

「アリアさん。この勝負、あなたに譲りますわ。だけれど千佳さんは私に頂きたいのです」

 アリアは腕を組んで眉根を寄せました。

 冬子は真の女王の座をアリアに明け渡し、その代わり千佳と付き合うことを認めてほしいと言っているのです。

冬子にとって千佳の存在は自分の趣味を共有できる唯一の人間でした。しかし、それはアリアも一緒です。アリアにとっても最早千佳は自分の人生において欠かせない存在でした。

「冬子、それはできないわ。だって真の女王が千佳ちゃんと付き合えるんだから」

 当初は、真の女王を決めることが目的だったはずです。しかし、いつの間にか手段と目的がひっくり返ってしまったようですね。

 アリアは、そうはっきり断言しましたが、自分から千佳に「どちらと付き合いたい?」と尋ねることはできませんでした。なぜなら、千佳が「冬子」と答える可能性も十二分にあったからです。一方の冬子も同じことを考えていました。そのため二人とも千佳の答えを聞くのを恐れて黙ってしまいました。

 千佳は状況が飲み込めず、ただ慌てるばかりです。

 しかし、ある時ついにアリアが口を開きました。

「ねえ、千佳ちゃん? 私たちのこと好き?」

 冬子はその言葉を聞いてドキッとしました。しかし、千佳はすぐに明るい笑顔で答えます。

「もちろんです!」

 冬子がさらに続けて尋ねます。

「では、アリアさんと私、どちらの方が好きですか?」

「それは……」

 千佳の顔がサッと曇ります。彼女は口をもごもごと動かして答えに窮しているようでした。

「大丈夫よ。どちらを答えても私たちはあなたのことを嫌いになったりしないわ」

「そうですよ。それが私たちが背負うべき罪ですから」

「え、罪ってどういうことですか?」

「私たちは最初遊びで貴女を口説こうとしました。だけれど、二人とも途中で本気になってしまったみたいですね?」

 冬子がアリアに尋ねます。それに対してアリアはしっかりと頷きました。

 その様子を見た千佳は顔を赤くしました。

「だから、千佳ちゃん、私たちのことを貴女が嫌いになっても私たちはそれを罰として受け入れるわ」

「えっと、その……」

 千佳はもじもじし始め、自分の気持ちをどう言葉にすればいいのか困っているようでした。

「その、私はアリアさんも冬子さんも好きなので、どちらかを選ぶというのは……。その、もしよかったら三人で仲良くなるというのは……」

 アリアと冬子は顔を見合わせます。

「まあ、千佳ちゃんが言うんだったら……」

「……仕方ないですね」

 三人がお互いの手を取り合います。


 こうして二人の女王を統べる真の女王が誕生したのです。

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ラ・レーヌ、ラ・レーヌ 秋山善哉 @zenzai0501

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