第131話 これが〝お喧嘩〟ってヤツなんよ


《エステル・アップルバリ視点Side


「〝喧嘩〟の戦いやり方――だと……? 面白い」


 フィグは私の怒号を受け、改めておファイティングポーズを取ります。


「教えられるモノなら教えてみろ。何度でも……俺のパンチで叩き潰してやる」


「フフフ……そんじゃあ――さっそく、お受け取りあそばせッ!!!」


 私はバサッと長いドレススカートをなびかせ、高らかに右足を振り上げます。


 そしてその場で――思いっっっ切り、足元の地面にストンピングを叩き込みました。


 直後、ベゴンッ! と豪快な音を奏でて地面がお陥没。

 衝撃波と共に大量の砂埃が巻き上げられ、私とフィグの視界を遮ります。


「!? な、なんだ!? なにをして――!」


「隙ありィですわ!」


 間髪入れず私は足元の〝石〟をむんずと掴み上げ、声が聞こえた方向へ投石。


 まあ、フィグの反射神経なら避けられてしまうでしょうけれど――


「! くッ、そんな小細工、俺には――!」


「当たるんですわァ、これが!」


 投石後、私はフィグに向かって全力でおダッシュ。


 そして彼が石に気を取られ、回避した直後を狙って――顔面に飛び膝蹴りをぶち込んで差し上げました。


「ぐ――あァッ!!!」


 激しく吹っ飛び、壁に激突するフィグ。


 あらあら、とっても痛そう……。


 どれほど優れた反射神経をお持ちだったとしても、遮られた視界の中、しかも一度回避行動をした後では避けられなかったようですわねェ?


「さっき、よくも私の鼻をへし折ってくださいましたわね。今のはお返しでしてよ!」


「ク……ソ……!」


 血を吹き出す鼻をベキッと曲げ直し、フィグは立ち上がります。


 どうやら私と同じで、鼻の骨がへし折れたみたいですわね!

 ざまぁありませんわー!


「ま、まだまだ……!」


 すぐに拳を構え直し、反撃とばかりに私へ向かって突っ込んでくるフィグ。


 いいですわねぇ!

 その闘志、素敵ですわよ!


 でも……それ・・が、格闘技ボクシングの弱点なんだわ。


「ご覧あそばせ」


 私はスッと左手を掲げ、手の平をフィグへと見せます。

 それも全く応戦の構えを取らず。


 きっとフィグの目には、その唐突な挙手はあまりにも奇妙な動きに見えたことでしょう。


 新たな攻撃の予備動作?

 それともブラフ

 まさか棄権の意思表示、なワケが――。


 ――なんて考えが、一瞬でグルグルと頭の中を駆け回ったはず。


 でも残念。

 コレ、ただの視線誘導・・・・なんですの。


「――ドリャアッ!」


 フィグの視線が左手に集中した瞬間を狙って――私は右足の靴底で、蹴り上げるように地面を擦ります。


 同時に細かい砂や石つぶてがフィグに向けて飛翔。

 所謂〝砂かけ〟って技ですわ!


「! このッ……!」


 反射的に目を閉じるフィグ。


 お顔に砂粒を浴びせられては、まともに目も開けられませんわよねぇ!?


「行くぞオラァ!」


 ほんの一瞬だろうが、隙は隙。

 私はここぞとばかりに、拳を握り締めてフィグへと吶喊。


「ッ、――ハァ!」


 けれどフィグも負けじと、反射的に右ストレートを放ってきます。


 でも――流石にそれは当たりませんわよ。


 だってあなたが〝右利き〟なのは、これまでの殴り合いで十分わかっていますもの。


 無意識かつ反射的に繰り出す一撃は、必ず利き腕に依存する――。


 それがわかってさえいれば、どれほど速くとも予測回避はできましてよ!


「――見切った・・・・、ですわ」


 右ストレートが当たる寸前、私は上半身を大きく左へ傾けて回避・・


 同時に地面に手を突き、グルリと宙で身体を捻って――浴びせるように、回転蹴りをフィグの側頭部に叩き込んで差し上げました。


「ぐぁ――――ッ!!!」


 私の全体重と目一杯の遠心力が乗った、まさしく大技!


 そんな黄金の右足の一撃を受けたフィグは、もの凄い勢いでぶっ飛んでいきました。


 これぞ会心の一撃、ってヤツですわね!


「う……お……がぁ……!」


「フフン、どうですかしら? キッチリあなたのおパンチを避けて差し上げましたけれど」


「ふ、ふざけ……この卑怯者が……!」


 よろよろと立ち上がるフィグ。


 ……ふーん、あの蹴りを受けてまだ立てるんですのね。

 あなたも大概タフなのは認めてあげますわ!


「そ……それ・・がお前の戦い方か……! そんな……卑怯な戦い方が……!」


「卑怯? 私の戦い方が? 違いますわね、これが〝喧嘩ストリート〟の戦いやり方なんですわ」


 さっきのお返しとばかりに、私はフィグを見下すようにして言います。


「フィグ……あなたさっき、私を〝喧嘩ストリート〟の経験しかないと小馬鹿にしてくれましたけれど……逆にあなたは、リングの中での戦いしか知らないのではなくって?」


「……!」


「〝喧嘩ストリート〟にはルールなんてない。審判レフェリー付添人セコンドもいない。相手は足技を使ってくるどころか、砂でもナイフでも大勢の部下でも、使える物はなんでも使ってくる……。それが私の戦ってきた環境なんですのよ」


 思い出しますわ、王立学園に入学する前のことを……。


 剣槌ハンマーで殴られ、ナイフで刺され、集団でリンチにされ……その度に相手を一人残らずバチボコにぶちのめしてきましたの。


 お陰で凶器を持った相手との戦い方とか、多対一での戦い方とか、そういうのが嫌でも身に付いちゃいましたわ。


 まあ――確かに、私は純粋な格闘技に関しては素人同然かもしれません。


 けれど……少なくとも〝喧嘩ストリート〟においては、私以上のプロフェッショナルはそういないと胸を張れましてよ!


「もし私の戦い方を〝卑怯〟だと思われるなら――それはあなたの戦い方が、〝お喧嘩ストリート〟じゃ通用しねーってことですわ」


「……」


 黙りこくるフィグ。


 ――はい論破!

 論破ですわ!


 ん、バッチリ決まりましたわね!

 完璧に言い返してやりましたわー!


 フンス! と内心で勝ち誇る私。


 しかし――。


「…………そうか。わかった、いいだろう」


 フィグは脱力しつつも真っ直ぐに立ち、改めて両手の拳を眼前に構えます。


「お前への認識を改めよう。お前は間違いなく〝喧嘩ストリート〟のプロフェッショナルだ。認めてやる」


「あら、光栄ですわね」


「だが――それでも、〝喧嘩ストリート〟はボクシングの足元にも及ばない」


 ターン、ターン、とステップを踏むフィグの身体から放たれる、針のような鋭い気迫――。


 ……どうやら、まだまだやる気・・・らしいですわね。


「お前がプロフェッショナルなら、俺もプロフェッショナルだ。お前をノックダウンして……ボクシングこそが最強だと、証明してやろう」


「フフ……よろしくてよ。そんじゃあ改めて、〝対よろ〟ですわね」



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