第73話 なんだか安心してしまって


『ヨシュア・リュドアンくん死亡!!! Cクラス、残り一名です!』


「…………そんな……嘘だろ……!」


 ヨシュアの敗北を目の当たりにしたCクラス最後の生き残りは、信じられないという顔で立ち尽くす。


 確かコイツはマルタンとかいう名前だっけ。


 ヨシュアの右腕らしいけど、コイツ一人じゃもうなにもできまい。


 どうするかな、面倒だし適当にスパッとやっちまうか?

 なんて思ったが、


「残るはキミだけだ」


 レオニールが先に、一歩前へと出る。


「どうする? オレでよければ相手になるが」


 オードラン男爵の手を煩わせるまでもない、後始末は引き受けよう。

 オレはオードラン男爵の〝騎士ナイト〟だからな!

 ――とでも言いたげな顔で、腰の剣に手をかけるレオニール。


 ま、やってくれるなら任せるが。

 レオニールの実力なら、120%負けることはないだろうから。


 そんなレオニールを見たマルタンは、一瞬腰の剣に手をかけようとする。


 だが結局は柄に触れず、脱力した様子を見せた。

 たぶん、実力差を悟ったんだろう。


 マルタンはフッと苦笑し、


「……いや、遠慮しとくよ」


「それじゃあ――」


「ああ……俺たちCクラスの負けだ」


 悪足搔きすることなく、敗北を認める。

 次の瞬間、


『中間試験、終~~~了~~~ッ!!! 試験結果は、Fクラスの勝利で~すッ!!!』




 ▲ ▲ ▲




「あ~終わった終わった。レティシア、見てた~?」


 ツカツカと妻の下へと向かう俺。

 

 うんうん、我ながらバチッと決めたところを見せられたと思う。


 やっぱ嫁にカッコいい姿を見てもらうのは夫明利に尽きるからなぁ。


 それに、これでレティシアと別れる可能性も消え失せたし?


 彼女も褒めてくれるよなぁ!?


 いや、いっそ褒めてくれなくてもいい!

 喜んで笑顔を見せてくれるだけで、俺は十分幸せ!


 ――なんて、心の中でウキウキなステップを踏みながらレティシアの傍まで来たのだが、


「……」


 そんな俺の目に映った光景は、あまりに意外なモノだった。


 ――レティシアは、泣いていた。

 

 瞳の端から一滴の雫が流れ落ち、頬を濡らしている。


「レ、レティシア!? どうしたんだ!? なんで泣いて……!?」


 えっ、なに!?

 俺、なんか悪いことした!?

 なにか彼女を悲しませることしたか!?


 アレか?

 ヨシュアの倒し方があんまりカッコよくなかったのかな……?


 それとも最後の〝惚れたから〟って決め台詞がイマイチだった……?

 でもレティシアに惚れて、今でもずっと惚れ続けてるのは事実だし……。


 どうしよう、わからん……!

 その他大勢の有象無象は泣こうが喚こうがどうでもいいけど、レティシアだけは泣かさないようにと肝に銘じてるのに……!


 額から冷や汗が滝のように流れる俺。

 たぶん顔色なんて真っ青だろう。

 もうヨシュアと対峙した時なんかより百超倍くらい緊張してるよ……。


「違う、違うの……ごめんなさい」


 慌てて目尻を拭うレティシア。

 彼女は目元をちょっとだけ腫らしながら、


「全部終わったら、なんだか安心してしまって……。まだアルバンと一緒にいてもいいんだって……」


「当たり前だろ? 俺たちはずっと一緒だ。それとももしかして、俺がヨシュアに負けるかも――なんて思ったか?」


「そういうワケでは、ないのだけれど……」


「冗談だ」


 レティシアに近付き、彼女の頬をそっと指で拭く。

 

「俺は誰にも負けないし、何処へも行かない。ずっとキミの傍にいる」


「うん……うん」


「だから泣かないでくれ。俺が見たいレティシアの表情は、それ・・じゃない」


「ええ、わかっているわ。……ありがとう、私の最愛の人アルバン


 そう言って――ようやく、彼女は笑ってくれた。

 それはまさしく、俺が一番好きで、一番見たかった彼女の表情だった。


 ――ああ、そうだよ。

 俺はキミに笑っていてほしいんだ。


 レティシアには、笑顔が一番よく似合うんだから。

 

 そして俺たちは、互いに抱擁し合う。

 周囲の目なんてお構いなしに。


 せっかく愛する妻を守り抜いたんだ。

 ちょっとくらい愉悦に浸ってもいいだろう?




 ▲ ▲ ▲




《ヨシュア・リュドアン視点Side


 ――身体の拘束が解ける。

 試験が終わったことで、死亡判定が解除されたからだろう。


 それを見て、すぐにマルタンが駆け寄って来てくれる。


「ヨシュア、大丈夫か……?」


「……ああ」


 自由に動くようになった身体で、オードラン男爵とレティシア嬢の方を見やる。


 ……人目を気にもせず抱き合う二人。

 もう他者が入り込む余地などないし、彼らの目にも入っていないのだろう。


 そしてなによりも、レティシア嬢のあの笑顔――


「……負けてしまったな。あらゆる意味で、完璧に」


「ヨシュア……」


「約束通り、ウィレーム公爵に婚約破棄を伝えてこなければな。まったく気が重いよ」


「……その割には、なんか悔しがってないじゃねーか?」


「ああ――何故だろうな、不思議と澄んだ気持ちだよ」


 こんな気持ちは初めてかもしれない。

 

 本来であれば、この中間試験は負けてはならなかった。

 多くの貴族が視察に来て、試合経過が全て見られるのだから。


 こんなに無様な敗北を喫すれば、Cクラス――いや、リュドアン侯爵家の評判は地に落ちるだろう。


 だが、それでよかったような気がするのだ。

 

 オードラン男爵に力を貴族たちへ見せ付けられたこと――

 そしてあの二人を引き裂かずに済んだこと――


 Cクラスの皆には悪いが、僕はこの結末を心の奥底で望んでいたのかもしれない。


「ハハ……やっぱり、あの二人は一緒にいるのがお似合いだろうさ」




 ▲ ▲ ▲




《オリヴィア・バロウ視点Side


 ――パチパチパチ


 私は両手を叩いて、軽やかに拍手を送ります。


 誰に対してかって?

 それは勿論、魔法映写装置スクリーンに映るFクラスの皆――もといオードラン男爵と可愛い妹レティシアへ。


「最高の結末フィナーレでしたわ。まるで特上の戯曲で彩られた舞台劇のよう」


 本当に素晴らしかったわ。

 きっとこれ以上の芸術は存在しないでしょう。

 もう百点満点です。


 いえ、可愛い可愛いレティシアが頑張っている時点で、百点は決まっていたのだけれどね?


 オードラン男爵やFクラスの皆が、本当に色とりどりの活躍をしてくれたのだもの。

 やっぱり百点じゃ足りないわ。

 一億兆点くらいあげちゃおうかしら。


 後でこの記録映像の複製も頂かなくっちゃ。

 いっそ劇作家に頼んで本当に舞台化しちゃうのもアリかもしれませんわね。

 ああ、楽しみだわ!


「いかがでしたか、お父様? 素晴らしい結末エンディングが見られたと思いませんこと?」


「……」


 お父様――ウィレーム公爵は黙ったまま、魔法映写装置スクリーンから目を離さない。


 いや――離せない・・・・のかもしれない。


「……まだ、あの二人を認めてあげられませんか?」


「…………私は――」




――――――――――

凄くどうでもいい話ですが、昨日生まれて初めて鳥のフンの爆撃を受けました。

幸い背中のスクエアリュックにでしたが。

とてもショックでした。

汚いお話で申し訳ありません(´·ω·`)


初見の読者様も、よければ作品フォローと評価【☆☆☆】してね|ω`)


☆評価は目次ページの「☆で称える」を押して頂ければどなたでも可能です。

何卒、当作品をよろしくお願い致しますm(_ _)m

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