第67話 アサシン・ダークネス


《ヨシュア・リュドアン視点Side


『チェルアーノ・ヤニックくん死亡、ギャレック・ドルトリーくん死亡、フィアンカ・ルフレイさん死亡! Cクラス残り五名です!』


「なっ……なにやってんだアイツら!?」


 マルタンが驚愕で目を丸くする。

 同時に冷や汗が彼の額から滴り落ちた。


 ……正直に言って、僕も少し驚きだ。


 あの三人組の実力は僕もマルタンもよくわかっている。

 一人一人の実力は高くないにせよ、連携戦術に関しては決して侮れない。


 特にフィアンカ。

 彼女の魔法が有効に働けば、倍の人数を相手にしても立ち回れるはず。


 だからこそ、彼らに最も守りか固いであろう迂回ルートを任せたのだ。


 事実、Cクラスメンバーの中であの三人組の連携戦術に打ち勝てたのは、僕とエルフリーデだけだったからな。


 それがこうも容易く……。


 ……これもオードラン男爵やレティシア嬢の計算の内だというのか?


 いや、まさかな――。


「……悔しいが、これで完璧な形での勝利は不可能となった」


「お、おいヨシュア……」


「だがまだ勝負はついていない。この中間試験は、あくまで〝旗〟の奪い合いだからな」


 ――そう、そうだ。


 相手を倒す、倒されるではない。

 目的を履き違えてはならない。


 それに、僕らはまだ主力・・を失ってはいないからね。


「彼女が――ペローニが無事な限り、勝つのはCクラスの方さ」




 ▲ ▲ ▲




「ちょっと、あの三馬鹿ってばなにやられちゃってんのぉ!?」


 Fクラスが守る旗の下へ向かうペローニは、三人組の死亡放送を聞いて「マジぴえん!」と舌打ちする。


「ふーんだ、別にいいもんね! アタシはアタシの仕事ができるしごできを見せるだけだし!」


 最後はペローニちゃんしか勝たん!ってわからせてやるっつーの!

 と内心で自身を鼓舞するペローニ。


 そしていよいよ――彼女はダンジョン中央の古代集落跡エリアに到着した。


「ようやく来ちゃ! さ~てぇ? 可愛い可愛いアタシの旗ちゃんはどこかにゃ~?」


 出来るだけ背が高い廃墟へ上り、古代集落跡エリアを見回す。

 すると――


ハオ~♪ 発見~」


 遂に、ペローニは旗を見つける。

 あれを回収して自陣にまで持って帰ればCクラスの勝利。

 彼女にとっては朝飯前だったが――


「……でも変なの~。誰も旗を守ってないんですけど~?」


 てっきりペローニは、旗の傍にはアルバン・オードランやレティシア・バロウが待ち構えているものと思っていた。


 だが――そのどちらも・・・・がいない。

 それどころか旗の周囲に人影はなく、もぬけの殻だ。


「怪しくね? まだFクラスって誰も死んでないっしょ? なのになんで――」




「カァー!」




 その時だった。

 古代集落跡エリアの上空に、鳴き声・・・が響き渡る。


「んぉ? カラス?」


「カァー! カァー!」


「なしてこんなトコダンジョンにカラスなんているん? どっかから紛れこんだん?」


 ま、いっか。

 カラスなんて気にしててもしょーがないし。

 ――と、ペローニは気持ちを切り替えて旗の下へと向かう。


「ま、見えないだけで誰か待ち構えてるかもしんないし~……っと」


 そろりそろり、と慎重に市街地の中を移動。


 古代集落跡エリアには廃墟となった建造物が数多く存在しているため、姿を隠す場所は無数にある。


 それを理解しているペローニは奇襲に備えつつ移動していくが――結局、人の気配を一切感じないまま旗の付近へ到着した。


「マジ人の気配ないわ。でも鬼ラッキー! これならチルに持って帰れるじゃん!」


「カァー!」


 再び、上空でカラスが鳴く。

 それもペローニの頭上を旋回して飛びながら。


「……あのカラスってば、うっさいなぁ~。なんでアタシの上をグルグル飛んで――」




「――それは……あなたをじっと見つめているから……」




「うぅおおぉわっひゃあああああ!?!?」


 背後から突然聞こえた女生徒の声に、思わずビクーン!と背筋を伸ばすペローニ。

 彼女は飛び上がる猫のように距離を取る。


 それと同時に、上空を旋回していたカラスは女生徒の肩に止まった。


「だっ、だだだだだ誰ッ!?」


「私は……カーラ・レクソン……。ちなみに……この子はダークネスアサシン丸……」


「カァー!」


 ペローニの背後を取った女生徒は、Fクラスのカーラだった。


 そして先程からペローニを監視するように飛んでいたのは、彼女の相棒ダークネスアサシン丸である。


「こ、このアタシが背中を取られるとか、マジエグちなんですけど……!?」


 潜入や単独行動が得意なペローニは、周囲への警戒を怠るような真似はしない。


 それどころか気配には人一倍敏感なはずなのだが、それでもカーラの接近には気付けなかった。

 それほどにカーラは存在感が薄いのだ。


「……私は暗殺一家アサシンの家系に生まれた娘……背後くらい取れないと……お話にもならない……」


「カァー!」


 そうだそうだ!と賛同するように甲高く鳴くダークネスアサシン丸。

 

 カーラの名前を聞いたペローニは驚いた顔をして、


「! あぁ……それじゃアンタが、あの悪名高いレクソン家の次女なんだ」


 僅かにニヤッと口の端を吊り上げる。


「知ってはいたよ。国王の懐刀にして、ヴァルランド王家が唯一正式に認可する暗殺一家……その次女がFクラスにいるってのはさ」


「……」


暗殺者アサシンなんてマジきっしょ――って言いたいとこだけど、アタシも密偵スパイの家柄に生まれた身だから? 案外ご同類かもね?」


暗殺者アサシン密偵スパイは全然別物……同類なんて思わない方がいい……」


 シュッと両手に苦無クナイを構えるカーラ。

 

 だが武器を構えても尚、彼女から殺気は放たれない。


 存在感は希薄なままで、目の前にいるのに今にも見失ってしまいそう――とペローニが感じるほどだった。


「……旗は渡さない……アルバンくんとレティシアちゃんの幸せ……そして私の執筆する『アル×レティ 甘イチャな二人の幸せ結婚学生生活』シリーズは終わらせない……!」


「! アル×レティ――ってもしかして、あの小説アンタが書いたヤツなの?」


「――!? まさか、知って……!?」


「学園の裏で出回ってる、あの〝しょーもない恋愛小説〟っしょ? アレさあ、きしょいって」


 ペローニはヒラヒラと手を動かし、まるで汚いモノを振り払うかのような素振りをする。


「ちょっと読んだけどさ~、あんな喪女が妄想したようなベタベタな恋愛とか結婚生活なんて、あるワケないじゃん。全然リアルじゃないし、割とガチわりガチでキモいんだよね」


「カ、カァー!」


「キラキラな恋愛~? 胸きゅんな青春~? もうさ、そういうの卒業したら? ああいうの読むと、こっちまで恥ずく――」


「カァー! カアァー!」


「――ちょっと、そのカラスうっさいんだけど! 早く黙らせ――!」


「……………………………許さない」


「へ?」


「許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない……絶 対 に 許 さ な い 」


 ――瞬間、初めてカーラが殺気をまとう。

 それも尋常でないほどの。


 まるで悪魔か怨霊か――いや、それすらも泣いて逃げ出してしまいそうなドス黒い殺気。


 カーラの足元に転がる小石がカタカタと震え、周囲の空気が湿り気を帯びる。


 彼女は血走った目をギョロリと動かし、髪の隙間から見下すようにペローニを睨む。


「よくも……よくもよくも、乙女の憧れを貶したな……! お前だけは……泣いて謝っても許さない……!」


「あの、ちょっと……!?」


「乙女コンテンツを愛する暗殺者アサシンが、どれほど恐ろしいか……思い知れッ!!!」



――――――――――

☆11/03時点 サポーターギフトのお礼

@tan2001様

ギフトありがとうございます!!!

連続でギフト頂けるなんて驚き……!Σ(゚д゚;)

感謝……!!!


初見の読者様も、よければ作品フォローと評価【☆☆☆】してね|ω`)


☆評価は目次ページの「☆で称える」を押して頂ければどなたでも可能です。

何卒、当作品をよろしくお願い致しますm(_ _)m

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る