第68話 暴君は遅れてやってくる
「ぬううぅぅんッ!!!」
豪快に戦斧を振り被り、エルフリーデへと斬りかかるローエン。
それは大岩すらも叩き斬りそうなほどの勢いだったが、エルフリーデはヒラリと身軽に回避。
「そんな力任せの攻撃、私には当たらないわよ」
「だが、時間稼ぎにはなるだろう!」
ローエンは苦笑を浮かべながら猛攻を繰り出し続ける。
――彼の言った通り、エルフリーデとローエンの実力差は明確。
まるでレオニールと戦っているようだ、とローエンが内心で思ったが――
「いや……それは言い過ぎか」
ゼェゼェと息を切らしながら、ローエンは独り言のように呟く。
「まだまだ、レオニールとの稽古の方が大変であろうよ……!」
「ちょっとローエン! そいつの動き止めてくんなきゃ狙いないよ!♠」
クロスボウを構えて狙いを定めようとするラキ。
だがエルフリーデの身軽な動きに翻弄され、中々発射のタイミングが定まらない。
「そんなこと、わかっている!」
「まるでダメね。ロクに連携が取れていない。あなたたち、普段コンビを組んでいないでしょう?」
見透かしたように言うエルフリーデ。
二人は完全に彼女の手玉に取られていた。
「……やっぱりFクラスの実力なんて、こんなものなのかしらね。正直ガッカリだわ」
「ッ、言ってくれるな……!」
ローエンは悔しさでギリッと歯軋りする。
すると、その時――
『チェルアーノ・ヤニックくん死亡、ギャレック・ドルトリーくん死亡、フィアンカ・ルフレイさん死亡! Cクラス残り五名です!』
パウラ先生の声がダンジョン全体に響き渡る。
それを聞き、初めてエルフリーデの顔が驚きに染まった。
「――!? なんですって……!?」
「ほう……エステルか、それともイヴァンとマティアスの二人がやってくれたか」
ニヤリと笑うローエン。
それは紛れもなくFクラスにとって吉報であり、Cクラスにとって凶報であった。
「俺たちも負けていられんな……この勢い、乗らせてもらう!」
奴の余裕が乱された今こそ絶好の機会!
ローエンはここが勝機と、戦斧を振るって会心の一撃を決めにいく。
「おおおおおぉぉぉッッッ!!!」
「…………本当、仕方のない」
ユラリ、とエルフリーデが双剣を動かす。
次の瞬間――彼女は初めて、本気の斬撃を繰り出した。
ローエンが大振りの攻撃を繰り出そうとして生まれた隙を見逃さず、双剣による連撃を一気に叩き込んだのである。
「ぐ――お――ッ!?」
「謝罪しましょう、Fクラスも思ったよりやるのね。もう悠長にはしていられない」
――ローエンの身体が固まり、身動きが取れなくなる。
死亡判定となったのだ。
「ローエン! このっ……!」
すかさずクロスボウを放つラキ。
しかし彼女の放った矢をエルフリーデは容易に弾き、一瞬で間合いを詰める。
そして彼女の持つ双剣が、ラキの首筋へピタリとあてがわれた。
「う……あ……っ」
「終わりね」
直接的な戦闘が不得手なラキとエルフリーデとでは、天と地ほども実力差がある。
双方ともそれはよくわかっていた。
「あなたを仕留めて、早くペローニに追い付かないと。彼女が心配だわ」
エルフリーデは冷たい眼差しのまま、首にあてがった双剣に力を込めようとする。
だが、
「……その心配、いらないかもね」
完全に追い詰められたはずのラキが、何故かニヤッと微笑んだ。
「え?」
「だってアンタ、ここで終わりだから♦」
「なにを世迷いごとを――」
「よく言うじゃん? ――〝
「……おい、誰が
▲ ▲ ▲
なんか知らんけど、随分いいタイミングで辿り着いたっぽいな。
ローエンがやられて、ラキの奴もあと一歩で死亡ってとこだったらしい。
俺は別に、ラキを助けに入ろうなんて微塵も思っちゃいなかってけど。
俺が助けたいと思うのはレティシアだけだし。
この二人の組み合わせが不安だったから、遊撃手として来てみただけで。
でも――来てみて正解だな。
「さっすが私のヒーロー! アルくんってば絶好のタイミングで来てくれるじゃん♥」
「誰がお前のヒーローだっつの。俺の
「……そう、あなたがアルバン・オードラン男爵……」
ラキの首に剣をあてがっていた双剣の女は、ゆっくりとラキから剣を離す。
そして俺の方へと歩いてくると、
「ヨシュアが言っていたわ。Fクラスではあなたが抜きん出て強いはずだって」
「ああ、まあそうだな」
「……私はエルフリーデ・シュバルツ。同じ武芸者として――お手合わせ願えるかしら」
双剣を構える
……ふーん、なるほど。
ちょっとは
立ち姿で十分わかる。
ヨシュアほどじゃないが、コイツも強い。
おそらく剣の実力だけならCクラスナンバー2だろう。
二人を圧倒するだけのことはある。
むしろローエンとラキって組み合わせで、よく今まで持ち堪えたって感じか……。
――あ、そういえばレティシアが言ってたな。
〝
「……ラキ、ローエン」
俺もゆっくりと剣を構え――
「今までよく持ち堪えた。後は俺に任せろ」
エルフリーデと相対する。
さて……お手並み拝見といくか。
「では……いざ尋常に――」
お互いに、ジリジリと靴底で地面を踏み締める。
斬り込む際に踏み付ける地面、その理想的な足場を無意識に探すように。
そして――
「勝負ッ!」
――電が地面を這うかの如き凄まじい速度で、互いの一閃が交差した。
まさに刹那の出来事。
すれ違い様に繰り出される刃と刃。
勝負は一瞬だった。
さっきまでの両者の位置が入れ替わるように、俺とエルフリーデは互いに背中を向け合う。
「ど……どっちが勝ったの……?」
瞬刻の攻防を目で追えなかったらしいラキは、ゴクリと息を呑む。
――残身。
俺もエルフリーデも、時間が止まったかのようにピクリとも身体を動かさない。
だが――先に残身を解いたのは俺の方だった。
「……悪くなかった。だが
「バ……バカな……っ」
「レオニールの強さが十なら、お前はせいぜい八……いや七だな。俺の敵じゃない」
死亡判定となって動けないエルフリーデに対し、俺は剣を鞘に納めながら言う。
はい終了。
俺の勝ち。
「す――すっごーいッ!☆ アルくん最強! 流石Fクラスの〝
両手を広げ、ダッ!とダッシュで抱き着こうとしてくるラキ。
俺はそれをヒョイッと回避する。
「触んな。俺に触っていいのはレティシアだけだ」
「んもー、相変わらずいけずなんだから~♠」
「一途って言えよ。それじゃ、俺はもう行くからな」
動けなくなったローエンの肩をポンと叩き「お疲れさん」と労いの言葉をかけ、俺はこの場を後にする。
「さぁて……この後は、レティシアとの楽しい〝デート〟の時間だな」
俺は口元に不敵な笑みを浮かべる。
まるで悪役のように。
その直後、ローエンとエルフリーデの死亡判定を伝えるパウラ先生の声がダンジョン全体に響いたのだった。
――――――――――
なんだか久しぶりにアルバンを書けた気がする……(^-^;
初見の読者様も、よければ作品フォローと評価【☆☆☆】してね|ω`)
☆評価は目次ページの「☆で称える」を押して頂ければどなたでも可能です。
何卒、当作品をよろしくお願い致しますm(_ _)m
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