第66話 昔と同じと思うなよ!②


《イヴァン・スコティッシュ視点Side


「な、舐めやがって……!」


 チェルアーノはギリッと歯軋りし、怒りと焦りが綯い交ぜになった顔で得物を構える。

 他の二人も同様だ。


 ああ……あの時・・・の僕らもこんな顔をしていたのだろうな。


 やはり今ならオードラン男爵の気持ちがよくわかる。

 この三人の誰一人として、彼とは比較にならない。


 まるで――〝虫けら〟にしか見えないよ。


「どうした? 武器に〝恐怖〟が滲み出ているぞ?」


 僕は不敵な笑みを浮かべ、ワザとらしく彼らを煽った。


「黙れ! やるぞお前ら!」


「おう! 俺たちをコケにしたこと、後悔させてやらぁ!」


「ヒ、ヒヒヒ……!」


 一斉に襲い掛かってくる三人組。

 その動きは確かに連携が取れており、一見すると鮮やかな動作だ。

 だが――鈍すぎる。


「くたばれオラァ!」


 ギャレックが鎖を振り回し、思い鉄球を切り振り下ろしてくる。

 当たればタダでは済まないが、そんな大振りが当たるワケもない。


 僕とマティアスが軽く回避すると、


「ヒヒヒ――〔ダミー・ファントム〕!」


 フィアンカが魔法を発動。

 直後、ギャレックの背後から二人のチェルアーノ・・・・・・・・・が現れた。


「「アハハ! 本物はどっちかなぁ!」」


 ――成程、〝幻術魔法〟の一種だな。

 確かに一目見ただけでは、どちらが本物か見分けがつかない。


 そしてどうやら、チェルアーノの狙いは僕の方らしい。

 本物か分身か判別できないのは厄介ではあるが――


「――〔アクア・ウィップ〕」


 そんなもの、両方始末してしまえばいいだけだ。


 僕は片手剣を振るい、蛇腹のようにうねる水の刃を長く引き伸ばす。


 そして大蛇を操るかの如く水流の斬撃を放ち、二人のチェルアーノを同時に斬り裂く。


 ズタズタになった二つの身体だったが、そのどちらも霧散。


「残念! 分身が一つだけなんて言ってないよ!」


 いつの間にか死角へ入り込んでいた本物のチェルアーノが、背後から斬りかかってくる。


 ふむ、悪くない戦い方だ。

 厄介だと評されるだけはある。


 だが……避けるまでもない。


「アハハ! これで一匹――めッ!?」


 勢いよく間合いへ入って来たチェルアーノだったが、突如ガクッと体勢を崩す。

 まるで大蛇に足を搦め捕られたかのように。


 〔アクア・ウィップ〕で伸ばした水流の刃が、彼の足に巻き付いたのだ。


 僕はパウラ先生やFクラスの皆との特訓の末、これくらいには自在に水流を操れるようになっていた。


 感覚としては、剣の中に蛇でも飼っているイメージだろうか。

 やろうとさえ思えば攻防共に全自動フルオートで制御できる。


 まあ、これだけ出来てもオードラン男爵には到底敵わないがね。


「クソッ、なんだこれ……!?」


「こんなモノで驚かないでくれたまえよ。まだに華を持たせてないのでね」


「そういうこと」


 ――チェルアーノに向かって長柄槍を突き込もうとするマティアス。


 チェルアーノの足はまだ水流で搦め取られており、この攻撃は確実に避けられない。


「お――おいギャレック!」


「わかってらぁ!」


 今度はマティアスの背後にギャレックが迫る。


「うりゃああああ!」


 大きく振り被られる鉄球。

 だがマティアスは振り向くこともなく、


「――〔エアリアル・ブレイド〕」


 風属性の魔法を発動。

 長柄槍の後部石突が風刃をまとい、射出杭が放たれるように一気に伸びる。

 

「ぐ――お――!」


 しかしギリギリのところで回避されてしまい、ギャレックの頬をかすめていく風刃の杭。


「ヘ、ヘヘ、残念だったな――!」


「おっと、死神・・はまだ笑ってるぜ?」


「は――?」


 次の瞬間、長く伸びた風刃の杭が〝風刃の大鎌〟へと変貌。

 魔力を操作し、〔エアリアル・ブレイド〕の形状を変化させたのだ。


「ひっ――!?」


 大鎌は首を落とすようにビュン!と引かれるが、身を屈めたギャレックはすんでのところで回避。

 すぐに頭を上げるものの、


「あ、れ……? アイツ、どこに――」


 その時には、マティアスの姿はギャレックの眼前から消失していた。

 だが呆気に取られたのも束の間、


「俺ならここだよ、ウスノロ野郎」


 ギャレックの頭上から声が響く。


 大鎌を引いた直後、マティアスは軽やかにギャレックの頭上へと跳躍。

 彼は空中でクルリと回転し――ギャレックの背中を思い切り蹴りを入れた。


「ぐほおッ!?」


「ちょっ……!」


 ギャレックはチェルアーノのところまで吹っ飛び、二人は激突。

 僕たちの前でなんとも無様な姿を晒す。


「い、痛てて……なにすんだよこの木偶の坊!」


「う、うるせぇ! テメェが仕留め損なったのが悪いんだろうが!」


「ふ、二人共なにしてるの……! 早くやっつけちゃってよ……!」


 遂に仲間割れまで始める三人組。

 やれやれ、見苦しいことだ。


「チ、チクショウチクショウ! ここからだ! ここから本気を出すぞ!」


 ギャレックを退かしたチェルアーノが、怒りで顔を真っ赤にしつつ言い放つ。


 それを聞いたマティアスは「へえ?」と鼻で笑い、


「だとさ相棒」


「いいんじゃないか。こちらもウォーミングアップが終わったところだ」


 僕は眼鏡をクイッと動かし、その隣でマティアスは首をコキッと鳴らす。


 ――きっとあの三人の目には、今の僕らが化物にでも見えていることだろう。

 あの時のオードラン男爵が、僕らの目にそう映ったように。


「フィアンカ、〝とっておき〟だ! アレやるぞッ!」


「う、うん、了解……!」


 チェルアーノの指示を受けたフィアンカは、大量の魔力を杖へと込める。


「ム、ムムム――〔ダミー・ファントム〕!」


 彼女はさっきと同じ〝幻術魔法〟を発動。

 しかも今度はチェルアーノとギャレックがそれぞれ二人ずつに分身。

 余計に判別がし難くなる。


「――〔ディープ・ミスト〕ッ!」


 重ねてフィアンカが魔法を発動。

 周囲一帯に濃霧が立ち込め、一気に視界が効かなくなる。


 しまいには、僕とマティアスもほとんど互いの姿を視認できないほどになった。


「さあさあ、この濃霧の中で一斉に攻めるよ! どれが本物で誰が狙われるか――キミたちに対処できるかなぁ!?」


「今度こそ……ぶっ殺してやらぁ!」


 濃霧の中へと飛び込んでくる足音。


 次の瞬間から、濃霧の中で武器と武器が噛み合う金属音が鳴り響く。


 それは数分ほど続いたが――すぐになにも聞こえなくなり、濃霧は静寂に包まれた。






「ヒ、ヒヒヒ……終わったみたいね……!」


 静かになった濃霧を見て、フィアンカはハァハァと息を切らしつつ笑みを浮かべる。


 消費の激しい魔法を連続で発動し、もう魔力がほとんど残っていないようだ。

 だから〝とっておき〟だったのだろう。


「あ、案外呆気なかった……やっぱり負け犬は所詮負け犬……!」


 チェルアーノたちの勝利を確信するフィアンカは魔法を解除。

 濃霧が消失し、再び視界がクリアになる。


 ――刹那、


「負け犬が――なんだって?」


 片手剣と長柄槍が、フィアンカの首へとあてがわれた。


 勿論――それら武器の持ち主はイヴァンとマティアスだ。


「フ…………ヒェ…………?」


 フィアンカは声にならない声を上げ、硬直する。

 次に彼女が見たモノは、死亡判定となって地面に倒れるチェルアーノとギャレックの姿。


「チェ、チェルアーノ……ギャレック……!? な、ななななんで……!」


雑魚・・が二人から四人に増えたとこで、俺たちなら目を瞑ってでも始末できる――そういうこった」


「そうだな。全て倒せばいいだけだ」


「ば……ばばば、化物だぁ……!」


「その台詞はオードラン男爵にでも言ってあげてくれ。彼の方が正真正銘の怪物だからな。……さて」


 僕は片手剣をチャキッと動かし、


「降参するか、まだ戦うか……好きな方を選びたまえ」


 フィアンカに問うた。

 すると彼女はヘナヘナと腰を抜かし、


「………………こ、降参、しましゅ……」


 敗北を認める。


 ――この直後、ダンジョン全体にパウラ先生の声が響き渡り、チェルアーノ・ギャレック・フィアンカの三人組の死亡判定を伝える。


 レティシア嬢の作戦通り、戦いの局面が動いた瞬間であった。



――――――――――

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