第50話 操られるレティシア


 レティシアを攫ったライモンドは、気を失った彼女を抱えてダンジョンの奥を歩いていた。


 そして最奥にある開けた空洞まで行き着くと、魔法で岩の台座を作り、その上にレティシアを横たわらせる。


 すると、


「――”呪装具”の研究は順調なようでありますな、ライモンド先生」


 声が聞こえた。

 直後、岩陰となっている場所から道化師の仮面を付けた男が現れる。


 ――”串刺し公スキュア”だ。


「ああ、キミですか。いけませんねぇ、生徒が教師を尋ねる時はノックくらいしないと」


「それは失敬。ですが小生はそちらを支援している立場なのをお忘れなく」


「わかっていますとも。キミと彼女・・にはとても感謝しています。お陰で、私は”呪装具”の実験を続けられるのですから」


 ライモンドは実に愉快そうに、レティシアの頬を指でなぞる。


「キミたちが協力してくれたお陰で、私はなんの憂いもなく研究を続けられる……。もはやバカバカしい教職ともおさらばです」


「それは結構。ですが……少々約束が違うのではありませんか?」


 それは、ほんの僅かに苛立ったような声色だった。

 普段から道化を装っている”串刺し公スキュア”らしからぬ声、とも言えるだろうか。


「小生たちは、”研究の支援を約束する代わりにレティシア・バロウを破滅させろ”と言ったのです。実験動物にしろとは言っていない」


「アッハッハ、どちらも同じですよ。ですがどうせなら、魔法史を発展させる贄となってもらった方が都合がいいでしょう?」


「小生らには関係ありませんな」


「やれやれ……やはり学生に学問の素晴らしさを説くのは骨が折れますね」


 ライモンドは、懐から小さなネックレスを取り出す。

 ”呪装具”だ。


 しかし、ミケラルドやエミリーヌたちが着けていた物とは雰囲気が違う。


 宝石の色が酷く濁っており、遥かに禍々しい魔力が秘められている。


「それは……なんだか変わった”呪装具”でありますな」


「私の最新作ですよ。これまでの”負の効果をなくそうとした呪装具”とは真逆のコンセプトで作っています」


「ほう、つまり――」


「ええ。増強される魔力が従来の倍、代わりに受ける負の効果デメリットも従来の倍ということです。それと、ちょっと細工も施してありまして」


 ニヤリと笑って彼は言うと――そのネックレスを、レティシアの首に取り付ける。


「これでいい。さあ、起きてください」


「う……ん……」


 ――レティシアの目がゆっくりと開く。

 その瞳は、ライモンドを捉えた。

 

「私が誰だかわかりますね? 立ちなさい」


「はい………」


 光の宿らない虚ろな瞳のまま、彼女はライモンドの言う通りに動く。

 まるで操り人形のように。


「よろしい。以後私の言うことをよく聞くように」


「はい……わかりました……」


「これは……”催眠魔法”でありますか? ここまで見事に精神操作が出来ているのは初めて見ました」


「犬を飼い慣らすのに時間を費やす趣味はありませんので。ともかく実験の第一段階はひとまず完了。次は――」


 ライモンドが言いかけた時、彼目掛けて炎の魔球ファイヤーボールが飛んでしてくる。


 それは放たれた弓矢のような豪速だったが、ライモンドの魔法防御壁バリアに弾かれてしまう。


「……やれやれ、あの子たちは時間稼ぎもできませんでしたか」


「――レティシアを、返せ」


 ライモンドたちの下へ現れた、悪鬼の如き形相の男。


 言うまでもなく、憤怒に心を染め上げたアルバン・オードランその人であった。


「しかし丁度いい。次の段階をテストしたかったところです」




 ▲ ▲ ▲




 ……ああ、逃げる気はないってか。


 そりゃ助かるよ。

 ダンジョンから出られたら、一気に探すのが難しくなってたとこだからさ。


 にしても……レティシアの様子が変だな。

 それに、首から下げてるアレ――


 悔しいが”呪装具”を着けさせるのは阻止できなかったか。


 俺の大事な嫁に下品な物を着けさせやがって。

 許さない。

 殺してやる。


「オードラン男爵! ちょ、ちょっと待ってくれ!」


「ハァ……ハァ……! 一人で先に行かないでよ……!」


 ほんの少し遅れて、レオニールとオリヴィアがやって来る。

 二人はレティシアの方を見ると、すぐに”呪装具”を着けていることに気付く。

 

「……! オードラン男爵、彼女の首にあるネックレス……」


「ああ、”呪装具”だろうな。しかもエミリーヌたちのとは違う物らしい。どうも様子が変だ」


 レティシアの目に生気がない。

 茫然と立ち尽くし、まるで糸で釣られた人形のようだ。


 だが――そんな状態でもハッキリとわかる。

 彼女から、禍々しい魔力が止めどなく溢れ出ているのが。


 昼間にエミリーヌと戦っていた時とは比べ物にならない。

 まるで別人だ。

 その凄まじいまでの魔力に、俺ですら気圧されてしまう。


「くっ……! ライモンド、あなたよくも妹に”呪装具”を……ッ!」


「いい格好でしょう? さあレティシア・バロウ、命令です。彼らにあなたの力を見せ付けて差し上げなさい」


「はい……」


 レティシアは言われるがまま、ゆっくりと腕を掲げ――



「――〔ブリザード・サンクチュアリ〕」



――――――――――

恋愛のお話を書くのもっと上手くなりたい……。

イチャイチャラブコメとか読むのは好きなのに、自分で書くと難しく感じるとはこれ如何に?(´・ω・`)


初見の読者様も、よければ作品フォローと評価【☆☆☆】してね|ω`)


☆評価は目次ページの「☆で称える」を押して頂ければどなたでも可能です。

何卒、当作品をよろしくお願い致しますm(_ _)m

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