第49話 所詮は怖いだけの夢
あーあ、面倒くせぇなぁ。
どうして、どいつもこいつも俺とレティシアを引き裂こうとするのかね。
俺たちはただ、仲良く一緒に過ごしたいだけなのに。
本っ当に、どいつもこいつも……。
……。
…………。
………………。
そうか、そうなのか。
そんなに、俺からレティシアを奪いたいのか。
お前らは――そんなに死にたいんだな。
なら、お望み通り殺してやる。
「私たちを以前と同じだと思わないことね! このネックレスがあれば、レティシア・バロウもあなたも敵じゃないわ!」
「そうか。じゃあ死ね」
俺は右腕を前へ出し、
「――〔ダークネス・フレイム〕」
くだらないやり取りをさっさと終わらせるため、初手で”混合魔法”を繰り出す。
ゴウッ!と赤黒い炎が噴出し、炎属性と闇属性がミックスされた豪炎が奴らを焼き尽くそうとする。
だが――
「クク――〔シャイニング・フラッド〕!」
バスが魔法を発動。
光属性と水属性を掛け合わせた眩い光の激流が、俺の魔法を搔き消してしまう。
その予想だにしなかった光景に、初めて俺は驚かされた。
「――!? ”混合魔法”……!?」
「ああそうさ! ネックレスの力のお陰で、僕たちでも”混合魔法”を使えるんだ!」
「アルバン・オードラン、あなたも”混合魔法”の使い手らしいけど――もう自分の方が有利だなんて思わないことね!」
「――〔ブレイジング・ブラック・ボルト〕」
今度は炎属性・闇属性・雷属性の三属性を掛け合わせた、さらに強力な”混合魔法”を発動。
轟雷を帯びた黒炎が、地面を灼熱で抉り、空気を揺さぶる雷音を奏でながら吶喊していく。
これは俺が出せる最も強力な魔法の一つ、なのだが――
「フフフ! ――〔ホーリー・ゲル・クレイランス〕!」
対するかのように、今度はエミリーヌが魔法を発動。
妖しい光を放つ半液体状の泥の槍が地面から隆起する。
それはどうやら光属性・水属性・土属性を混ぜた”混合魔法”であるらしく、勢いよく俺の魔法と衝突。
結果、互いの魔法は完全に相殺し合い、激しい衝撃と共に消滅した。
「アハハハ! どう!? 今の私は、もうあなたと同格以上の魔法を使えるのよ! もう馬鹿にできないでしょう!?」
「……」
へえ……。
思ったよりも凄いんだな、”呪装具”の効果ってのは。
こんなゴミクズ共でも簡単に”混合魔法”を発動できるようになるなんて。
想像以上に厄介だ。
これだけ膨大な魔力があれば剣での斬撃なんて容易に防がれるだろうな。
それにいくら俺でも、三属性の”混合魔法”なんて燃費が悪すぎてバカスカ撃ち続けられない。
はぁ……面倒だな。
まったく、
でも――お前ら忘れてるだろ。
所詮お前らは、”呪装具”の力で強くなっているに過ぎない。
そして――そもそも”呪装具”は、誰でも着けられるってことを。
「……オードラン男爵、オレも加勢するよ。この戦い、思った以上に不利かもしれない」
「私もよ。魔法省の人間として、この子たちを放ってはおけない」
「いい、二人共下がってろ。どうせすぐ終わるから」
俺はエミリーヌたちに対してクルっと背中を向け、とある方向へ歩き出す。
「……? あら、逃げようったってそうはさせないわよ」
「誰が逃げるかよ。レティシアが待ってるって言ったろ」
そう言って、今や亡骸となったミケなんとかの傍でしゃがみ込んだ。
そして首に掛けられたネックレスを外し、
「お前らさあ、”呪装具”のお陰で自分が強くなれたと思ってるみたいだけど――”呪装具”があれば強くなるのは、俺も同じだから」
「――ッ! まさか……!?」
こちらの意図に気付いたのか、目を丸くするエミリーヌとバス。
オリヴィアも血相を変え、
「待って、駄目よッ!」
大声で制止しようとする。
だが俺はそんな彼女の叫びを無視し、ミケなんとかが着けていた”呪装具”を自らの首に下げた。
すると――すぐに、身体の奥底でドス黒い魔力が
途方もない魔力が止めどなく湧き上がり、間欠泉のように溢れ出ているのがハッキリとわかる。
「ああ……こりゃあ凄いな」
思わず口元に笑みが零れる。
それと同時に、頭の中に聞こえてくる声。
――”殺せ”
――――”壊せ”
俺は破壊衝動の赴くまま、片手に魔力を集中させる。
「実はさ……一度やってみたいと思ってたんだよ。”全属性を混ぜた混合魔法”ってヤツを」
炎、水、風、土、氷、雷、光、闇――
普段の俺の魔力では、精々この中のどれか三つを掛け合わせて発動するのが限界だ。
それ以上なんて魔力量も出力も足りない。
でも、考えたことはあるんだよな。
もしも全属性を混ぜたら、それはどんな威力になるんだろう――って。
――手の平の上で小さな魔力の塊を形成し、八つの色の魔力を混ぜ合わせる。
それは始め、まるでガラス玉の中に絵具をぶちまけたかのように、とてもおどろおどろしい色をしていた。
だが魔力が混ざっていくにつれ、色が消えていく。
そして最終的に――透き通るように無色透明の、超高圧縮の魔力の塊が出来上がった。
「へえ、こりゃあ面白いや。属性って全部混ぜ合わせると、無色になるんだなぁ。さながら”無属性”ってか?」
「な……なによ、それ……っ!?」
「あ、ありえん……! その小さな球の中に、どれほどの魔力を……!」
どうやらあの馬鹿二人も感じ取っているらしい。
「じゃ――くたばれ」
フワフワと浮遊する透明な魔力球を、ピンッと指で弾く。
そして魔力球は、エミリーヌたちの方へと飛んでいった。
直後――二人の顔が恐怖で引き攣る。
「ッ! ――――ホ、〔ホーリー・ゲル・クレイランス〕ッ!!」
「――〔テンペスト・ダーク・フレイム〕ッ!!!」
放たれた魔力球を打ち消すべく、エミリーヌたちは”混合魔法”を発動。
しかしアイツらの魔法は、魔力球に触れた瞬間に吸収され消滅。
打ち消すどころか、無色透明な魔力球はさらに大きく膨張。
そのまま二人へと接近し――
――
ダンジョンが崩壊してしまうんじゃないかと思えるほどの威力と衝撃。
あまりの凄まじさに、魔法を発動した俺まで吹っ飛ばされそうになる。
「――きゃあっ!?」
「うわあっ!?」
オリヴィアとレオニールも思わず身を屈め、爆風をやり過ごす。
ま、この二人なら間違って巻き添えになるなんてことはないだろう。
「大丈夫か、二人共?」
「あ、ああ……。オレたちなら大丈夫だが、エミリーヌたちは……」
「消し飛んだ――と言いたいとこだが、どうやらくたばり損なったらしい」
爆心地付近をよく見ると、瓦礫に埋もれて片手や片足だけ突き出した状態のエミリーヌたちの姿が。
あの感じだと、たぶん気絶しただけで死んではいなさそうだ。
おそらく爆発の瞬間に
仕留め切れなくてちょっと残念だ。
「なんて威力……これが”呪装具”の力なのね
……。それより――!」
「わかってますよオリヴィアさん。すぐに外しますから」
そう言って、”呪装具”を首から外そうとする俺。
すると、
『殺しなさい』
再び、頭の中に声が響く。
だがさっき聞いた声とは違う。
この声は――レティシアの声だ。
『壊しなさい。なにもかも滅茶苦茶にするの』
直後、さっきまでとは異なる強烈な負の感情が湧き上がる。
悲壮感、不安感、空虚感、絶望感、焦燥感、罪悪感……あらゆるネガティブな感情が、頭の中を埋め尽くす。
『アルバン、私が見える?』
声が聞こえた方向へ目を向ける。
すると、そこにはレティシアが立っていた。
ライモンドに攫われ、今ここにいるはずのないレティシアが。
『壊すのよ。なにもかも』
――わかっている。
これは幻覚だ。
”呪装具”が俺に見せている幻に過ぎない。
『私のお願いを聞いてくれないの?』
『がっかりだわ』
『あなたなら、私の期待に応えてくれると思ったのに』
『私を大事にしてくれるって言ったのに』
『私を幸せにしてくれるって言ったのに』
『あなたも……私を裏切るのね』
失望感に満ちたレティシアの声が、頭の中で鳴り止まない。
ああ……なるほどな。
これが、”呪装具”が見せる
心の奥底にある不安や恐怖――自分が最も恐れている光景を炙り出す。
その上で”殺せ””壊せ”と囁き続けてくる。
そうしなければ、この悪夢が永遠に続くと脅すように。
ミケなんとかも、似たような幻覚を見せられていたのだろう。
おかしくなっちまったのも頷ける。
けどな――
「……いいや、俺は絶対にキミを裏切らないよ」
俺は首から下げた”呪装具”の、宝石の部分を握り締める。
残念だけどな、俺は
オリヴィアに”幻術魔法”をかけられた時も、似たような光景を見せられたし。
それに、俺にはわかってんだよ。
「残念だったな”呪装具”。レティシアは絶対にそんなこと言わないし、俺も彼女を決して失望させない」
『……』
「こんなの、所詮は怖いだけの夢なんだよ。だからさ――覚まさせてもらうぞ」
宝石を握る手に魔力を込める。
そして――”呪装具”の核たる宝石を、バキンッ!と握り潰した。
粉々に砕ける宝石。
それと同時に、レティシアの幻覚も俺の目の前から消えていった。
それを目の当たりにしたオリヴィアは大層驚いた顔をして、
「う、嘘……! ”呪装具”の呪縛を……!」
「……進むぞ。
――――――――――
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