第48話 レティシアの名を口にするな


「もっとも、着用者含め失敗作・・・でしたがね」


 ダンジョンの奥から、一人の男が姿を現す。

 Dクラスの担任、ライモンド・クアドラだ。


 彼を視界に捉えた途端、オリヴィアの目つきはより一層険しくなった。


「――! ライモンド……!」


「やはり、所詮凡夫は凡夫ですねぇ。”呪装具”の負の効果に数日と耐えられないとは」


 やれやれ、とため息を漏らすライモンド。


 えーっと……これはアレかな?

 コイツが事件の黒幕だったってことでいいのかな?


 まあ俺に言わせれば、どこの誰が真犯人だったとしても別に構わんけど。


 でも――確かイヴァンが言ってたな。

 教師になる前、魔法省で”禁忌”の実験に手を出してたとかなんとか。

 

 結局、実験は続けてたってことか。


「あなた……やっぱり”呪装具”の実験を続けていたのね!? 生徒を被検体にするなんて、それでも教師なの!?」


「おやおや、酷い言い掛かりだ。私は”復讐がしたければ力をお貸しします”と名乗り出ただけなのに」


「っ! よくもぬけぬけと……!」


「やだなぁ、そんなに怒る必要ないでしょう? 相変わらず、そんな性格では男に嫌われますよ?」


 ――あ、お前その発言はアレだぞ。

 世界中の女性を敵に回す発言だぞ。


 コイツ絶対に異性から嫌われるタイプだな。

 ノンデリだノンデリ。

 サイテー。


「それに、彼の死は無駄ではありません。今回の失敗で、私は一つ確信を持てました」


「確信……?」


「ええ。どれだけ工夫を凝らそうとも、”呪装具”から負の効果をなくすことは不可能だと」


 無惨な死体と化し、地面に横たわるミケなんとかを見つめてライモンドは言う。


「”呪装具”の効果は素晴らしい。このような凡夫でも、一度着ければ”混合魔法”すら容易に扱えるようになるのですから。もしデメリットを取り除いた物を作ることができれば、私は魔法の歴史に名を遺すことができる――そう思ってきました、これまでは」


「……今は違うとでも?」


「ええ。”呪装具”から負の効果をなくす……この考えでは決して上手くいかない。ですから負の効果を消すのではなく、”負の効果に耐え得る被検体”を探すことから始めるべきだと気付いたのですよ」


「なん――ですって――?」


「無能に力を与えるのではなく、強靭な精神力と魔力を持つ者を、より強力な個体へと昇華させる。こうするべきだったのです」


 恍惚とした表情でライモンドは語る。


 直後――その視線は、俺たちの中の一人へと向けられた。


「そして私は今、新たな確信を得ています。この新たな実験の被検体第一号となるべき逸材――それは”レティシア・バロウ”こそが相応しいと」



「…………え?」



 ――その名前を口に出された瞬間、俺はライモンドへと斬りかかっていた。


 ほとんど脊髄反射の速度で。

 考えるよりも速く、殺意を沸き立たせて。


 しかし俺の放った刃は、ライモンドの周囲に張られた魔法防御壁バリアによってギインッ!と弾かれてしまう。


「おやおや、アルバン・オードランくん。いきなり教師に斬りかかってくるなんて、素行不良が過ぎますよ?」


「レティシアの名を口にするな。殺す」


 再び斬撃を繰り出し、魔法防御壁バリアへ何度も何度も何度も刃を叩き込む。


 だが、中々砕けない。

 相当に強い魔力によって守られているらしい。


 なるほど、腐っても元魔法省の人間、かつ現役の学園教師ってワケだ。


 まあ、関係ないけど。

 レティシアに害を成そうとする奴は、皆殺しだ。


「正直キミも捨てがたいのだが、些か凶暴過ぎる。それに彼女の潜在能力は素晴らしい。彼女にこそ、選ばれし者となるチャンスを与えるべきだ」


「うるせえ、さっさと死ね。――〔ボルカニック・ブレイド〕」


 俺は炎属性の魔法を発動。

 刃が燃え上がって超高温を発し、真っ赤に爆熱する。


「おお、これは凄まじい……」


 あくまで余裕を崩さず、感嘆とした様子すら見せるライモンド。


 俺は一切構わず、赤熱の刃を魔法防御壁バリアへと突き込んだ。


 バリィンッ!――と音を奏でて魔法防御壁バリアが砕け散り、刃がライモンドの胴体へと突き刺さる。


 普通であれば即死。

 なのだが、


「……やはり惜しい。キミがもう少し大人しければ、チャンスをあげられたのに」


 次の瞬間、ライモンドの身体がドロリと融解。


 魔力の液体となった奴の身体は地面へと染み込み、俺の目の前から完全に消える。


 おそらくはなにか特殊な魔法でも使っているのだろう。


『そんな攻撃では私を殺せませんよ。これでも私、天才ですから』


「どこに行った? 出てこい。殺してやる」


『キミに協力を仰ぐのは、またの機会にしましょう。今欲しいのは――』


キミの方・・・・だ、レティシア・バロウ」


 次の瞬間、レティシアの足元から液体が染み出して人型へと変貌。


 ほんの瞬きするほどの間に、彼女の目の前でライモンドとなった。


 あまりに一瞬の出来事。

 しかも生理的嫌悪感を催す光景だったがために、レティシアを始めレオニールもオリヴィアも対応が遅れてしまう。


「ひっ……!?」


「大いなる力にご興味は? 私はあなたを非常に高く評価していますよ」


「ち、近寄らないで!」


 レティシアは咄嗟に応戦しようとし、魔法を発動しようとする。


 だがそれよりも早くライモンドが彼女の顔に手を近付けると、


「先生の誘いは素直に受けるものです」


「あ――……」


 レティシアは瞬時に意識を失い、ガクッと脱力。

 ライモンドにもたれかかる。


「んーん、被検体の確保完了ですね」


「貴様――ッ!」


「このっ、妹に触るな!」


 傍にいたレオニールが剣を振るい、オリヴィアが魔法を発動しようとする。


 俺も間合いを詰めようとするが、ライモンドは再び液状化してレティシアを包み込むと、トプンっと地面の中に潜ってしまった。


『目的は達したので、私はおいとまさせて頂きますよ。あなたたちの相手は、彼ら・・にお任せします』


 どこからともなく、姿を消したはずのライモンドの声がダンジョンに響き渡る。


 そして次の瞬間には――俺たちの前にあの二人・・が現れた。


「フ……フフフ……!」


「クハハハ……!」


「!? キミたちは……Dクラスのエミリーヌとバス!」


 その姿を見て驚愕するレオニール。

 

 現れたのはDクラスの”キング”であるバス・なんとかと、レティシアとの魔法対決で敗れたエミリーヌ・なんとかだった。


 二人の目は明らかに血走っており――その首にはミケなんとかと同じ”呪装具”が下げられている。


 こいつらを犠牲に、俺たちを足止めしようって魂胆か。


 ――ハハハ、笑えるな。


「よ、よくもあの時は、私たちをコケにしてくれたわね……! このネックレスがあれば、あんたたちなんてゴミクズ同然よ!」


「……」


「なんてこと……! 彼らまで”呪装具”の実験台にするなんて……!」


「オリヴィアさん、あのクソ――ライモンドの魔力を追えますか?」


「え? え、ええ、魔力の残滓は僅かに感じとれるわ。ダンジョンの奥へ向かったようだけど……」


「ああ、よかった。そんじゃさっさと追いましょう。レティシアが待ってる」


「あらあら、無視するつもり!? そんなの許さな――!」



「……ごちゃごちゃとうるせぇんだよ。俺は今――心底キレて・・・んだ」



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