第47話 禁忌の代償
《エステル・アップルバリ
「”対あり”、ですわ」
「ぐえっ……」
最後の一人がドサリと倒れます。
ふぅ、中々いい殴り合いでしたわ。
お祭りみたいで!
うっかりお頭を潰してしまわないよう加減は必要ですけれど、スカッとしますわぁ!
「……エステル、俺、金輪際お前とだけは喧嘩したくねぇわ」
「……右に同じ」
「あらあら、マティアスもカーラもそんなに怯えないでくださいまし! 喧嘩なんて楽しんだもん勝ちですのよ、オーッホッホッホ!」
「へぇへぇ、そりゃ立派な心構えなこって。……ところでお前、
「? 気付くって、なにをですの?」
「……彼らの正体……私も途中から気付いてた……」
「進んで俺たちを襲ってくる連中なんて、ある程度想像はしてたが……ちょっとばかし意外だったな」
マティアスはそう言って、私にぶん殴られて気絶した一人のフードを取り払います。
すると――
「! この方――
「ああそうだ。EクラスじゃなくてDクラスの連中だよ。こりゃどういうワケなんだろうな?」
「……わからない……でも彼らはまるで、誰かに
「ああ……俺たちは想像以上に、厄介なことに巻き込まれちまったのかもしれねーな」
▲ ▲ ▲
――俺はレティシア、レオニール、そしてオリヴィアと共にダンジョンへと赴いていた。
「お~い、ミケなんとか出てこ~い。面倒だから、さっさとぶっ飛ばしてやるぞ~」
「オ、オードラン男爵、ぶっ飛ばすと言われて出てくる人って、普通はいないと思うんだが……」
ダンジョンの雑魚モンスターを適当に倒しながら進む俺と、そんな俺に突っ込みを入れるレオニール。
でもアレじゃない?
悪役って案外「どこだ、姿を見せろ!」とか言うとあっさり出てきてくれたりするもんじゃない?
あ、でもこの世界の悪役って俺だったか。
じゃあ出てこないわな。
もっとも俺にとっての悪は、ミケ阿呆であることに間違いはないんだけど。
そんな感じで俺とレオニールが先頭を進み、背後からレティシアとオリヴィアが追従していたのだが――
「……なあオードラン男爵、気付いているかい?」
「ん~? そこら中にできた、この
「ああ。ダンジョンの入り口からずっと破壊の痕が続いている。どう見ても、何者かが攻撃魔法を乱用した痕だ」
「モンスターを蹴散らすために魔法を使った――って雰囲気じゃなさそうだな」
俺たちが踏み込んだダンジョンの様相は、明らかに異常だった。
地面・壁・天井の至る所に攻撃魔法の着弾痕があり、しかもそれが延々と続いている。
だがどうも、激しい戦闘があった気配はない。
そもそもここのモンスターは大して強くもない。
ダンジョン自体を壊そうとした――のとも雰囲気が違う。
まるで、術者が暴走して魔法をぶっ放しまくっただけのような……。
抑え切れない破壊衝動を、本能のまま巻き散らかしたかのような……そんな気配さえ感じる。
ともかく気味が悪い。
こんな所にレティシアを長居させたくはないな。
さっさと終わらせて帰ろう。
そうしよう。
「……」
「姉さん、さっきからなにか考え込まれている様子だけど……どうかしたの?」
悩ましそうに腕組みをして歩くオリヴィアに対し、レティシアが声をかけた。
――オリヴィアはダンジョンに入ってからずっとこんな様子だ。
なにか考え事しているかようだが……。
「ええ、ちょっと気がかりがあって……。でも心配しないで、早くミケラルドを見つけましょう」
そう返して微笑んで見せるオリヴィア。
すると――その時だった。
「……ク……クヒヒ……」
ダンジョンの奥から、呻くような声が聞こえてくる。
「あ、出た」
「! ミケラルド……!」
剣を構えるレオニール。
いつも通り脱力して剣を肩に担ぐ俺。
そんな俺たちの前に、いよいよミ阿呆ルドが現れた。
明らかに血走った目をしており、そのニヤニヤと笑った顔からは正気が感じられない。
レオニールは剣の切っ先を奴へと向け、
「あの時は遅れを取ったが、今度はそうはいかない! ローエンの借りも返させてもらう!」
「クヒ……ヒ…………助……け……」
「――え?」
次の瞬間――ミケなんとかが、ドサリと倒れる。
まるで糸が切れたかのように。
今の倒れ方……。
俺はおもむろに横たわるミケなんとかへ歩み寄り、その首元に手を当てる。
――ああ、やっぱり。
「アルバン……?」
「レティシア、見るな」
「え――?」
「コイツ、もう死んでる」
「「「――!!!」」」
驚く三人。
まあ、目の前に現れた人間がいきなりこと切れたら、そりゃ驚くわな。
俺は別に驚かないというか、どうでもいいけど。
むしろ手間が省けたとすら言えるのかもしれないが……。
「どうやらかなり衰弱してたらしいな。なんだってまた、こんなになるまでバカスカ魔法を――って、これは……?」
ふと、俺の目に
「なんだこれ? ネックレス?」
それは、ミケなんとかが首に付けているネックレスだった。
小さな宝石のような物体が付いているが、あまり高級感はない。
どうも貴族が見栄えのために着ける類の物ではなさそうだが……。
っていうか、なんだ?
この宝石から魔力を感じ――
「――っ! 待って、触っては駄目!」
突然、オリヴィアが声を荒げる。
今度は流石に俺もビクッと驚き、
「え……あの、このネックレスって……?」
「やっぱりね……嫌な予感が当たってしまったわ。それは”呪装具”よ」
「”呪装具”?」
「簡潔に説明するなら、それ自体が強力な魔力を帯びる特殊な
「へえ、そんな便利な物が世の中にあるんだな……。でも今の反応から察するに――」
「そう、魔法省は”呪装具”を特級危険物に指定。回収及び封印に努めているわ。何故なら……これは、人を壊してしまうから」
忌諱が込められた声で彼女は言う。
オリヴィアがこれほどの不快感を見せるのは初めてだ。
「”呪装具”は膨大な魔力と引き換えに、着用者に強烈な負の感情を植え付けてしまう」
「負の感情……」
「怒り、憎しみ、妬み、恐怖、破壊衝動……。とにかく着用者を攻撃的にさせるの。しかも一度着けたら最後、外そうとする度に精神汚染に襲われて、並大抵の精神力では外すことすらままならなくなってしまうのよ」
「それで、衰弱死するまで魔法をぶっ放し続けるようになる――ってか」
……なるほどな。
つまり強烈な力を与える代わりに人格を破壊する、バーサーカー製造機ってことか。
まさに呪いの装備。
そりゃ確かに危険極まりない。
もしこんな物が世間に広まろうものなら、巷は手の付けられない暴走魔法使いで溢れ返ってしまう。
魔法省が躍起になって回収するワケだ。
「その効果故に、”呪装具”を新たに作り出す行為を魔法省は”禁忌”と定めているわ。今では闇市場にもほとんど出回っていないはず。それなのに、彼が身に着けていたということは――」
「――――ええ、お察しの通り。それは
――――――――――
作者の腰を心配して下さった皆様、ありがとうございます。
とりあえずどうにか回復しました……。
しんどかった……(;´Д`)
初見の読者様は、よければ作品フォローと評価【☆☆☆】してね|ω`)
☆評価は目次ページの「☆で称える」を押して頂ければどなたでも可能です。
何卒、当作品をよろしくお願い致しますm(_ _)m
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