第36話 男子会、からの出会い
「……で、この状況はなんだ?」
俺は城下町の通りを歩きながら、ブスっとした顔でぼやく。
なんでブスっとしてるのかって?
そりゃ不機嫌だから。
なんで不機嫌かって?
今、俺の隣にいるのがレティシアじゃなくてむさくるしいFクラス男子共だからだよ。
マティアスは屋台で買ったホットドッグを頬張りながら、
「なんだって、見りゃわかんだろ? Fクラスの男同士、親睦を深めてんじゃねーか」
「どうして俺がお前らと親睦を深めなくちゃならないんだよ……」
「そりゃお前は”
「いらん。っていうかお前が屋台飯を食べるなんて意外なんだが」
「俺はジャンクが好きなの」
もっきゅもっきゅとホットドッグを食べ尽くすマティアス。
ウルフ侯爵家は途方もない金持ちだから、いくらでも贅沢な食事ができるはず。
にも関わらずジャンクフードを好むとは、コイツも案外物好きだな……。
――話を少し前に戻そう。
何故唐突に、俺がFクラスの男子たちと一緒に町へ繰り出すことになったのか?
それはレティシアの提案があったからだ。
『せっかくFクラスの”
これにFクラスのメンバーも賛同。
とはいえ十人がまとまって動くと大所帯になるため、男子組・女子組で分かれることとなった。
なので今頃、レティシアたちは女子会を漫喫?しているのだろう。
で、俺たちも男子会をする流れになったのだが――ぶっちゃけ、なにをしていいかわからん。
俺は城下町にまだそこまで詳しくないし、シャノアの喫茶店にはレティシアたちが行ってるし。
そもそもなにが悲しくて、男五人で街中をデートしなくちゃならんのか……。
あ~、レティシアのとこへ行きたい……。
「そうつまらなそうな顔をするな、オードラン男爵」
イヴァンが諭すように言ってくる。
コイツはこういう馴れ合いを嫌うタイプと思っていたが、意外にも乗り気である。
「僕たちは今や運命共同体なんだ。いつまでもいがみ合っているより、多少なりとも友好的にした方が合理的だろう」
「お前にそれを言われてもね……」
「厚顔無恥な自覚はあるさ。それでも敢えて言わせてもらう」
……ふーん、憎まれ役でも買って出たつもりかね。
まあ見てわかるが、イヴァンは組織の中にあって参謀を務めるタイプの人間だ。
得てして参謀は恨まれがち。
だって、誰に対しても言い難いことをズバズバ言わなきゃならないから。
既に前科がある身だからこそ、意識してそう振る舞ってるのかもな。
一応、イヴァンなりの罪滅ぼしの形なのかもしれない。
「そうだぞ”
気安い感じで俺の背中をバンバン叩いてくるローエン。
微妙に痛い。
お前そこそこ筋肉あるんだから、無暗に叩くなよな……。
「強き者同士、ねぇ……。俺に瞬殺されてたのに?」
「ふぐっ!?」
「せめてレオ並に強くなってくれたら、強者と認めてやれるんだけどな~」
「くほぉっ!?」
心に傷を負うローエン。
傷付けるつもりはちょっとしかなかったのだが、本人には大ダメージだったようだ。
だがこれは、俺から彼への要望でもある。
武力を是とする武闘派ならば、今の強さで満足してほしくはない。
おそらくだが、ローエンはまだ強くなれるだろう。
筋は悪くないからな。
レオニールほどの強さになれるかはわからないが、その次くらいには強くなれるんじゃなかろうか。
そうなってくれたら、他クラスとの揉め事は全部コイツに擦り付けられるのに。
頑張ってほしいなぁ。
「ま、まあまあオードラン男爵。その辺にしておいて……」
最後に、苦笑しつつも俺をたしなめてくるレオニール。
だが彼はひと呼吸ほど間を置くと、
「だけど……想像もできなかったな」
「? なにがだ?」
「オレがこうして、貴族の皆と肩を並べて歩いていることが――だよ」
なんとも感慨深そうに、レオニールは言った。
「王立学園に入ってすぐの頃は、仲間なんてできないかもって思ってたんだ。オレは平民出身だから」
「……」
「孤独なまま学生生活を終えるのも覚悟の上だった。だけど、あなたと出会って全てが変わったんだ。改めてお礼を言わせてくれ」
「よ、よせよ……俺はなにもしてない」
そんな改まって堂々と感謝されると、なんだか背中が痒くなってしまう。
やれやれ、相変わらず素直な奴というか、愚直な奴というか……。
――なんて俺が思っていると、
「きゃああああッ!!!」
町の中に、突如悲鳴が響き渡った。
「ス、スリよ! 誰か捕まえてッ!」
見ると、二人組の男が女性モノの鞄を掴んで走り去っている。
どうやら”ひったくり”らしい。
「! アイツら――!」
「あ~あ、面倒くさ。レオ、
流石に見て見ぬふりはできまい。
でも、俺一人で二人捕まえるなんて怠すぎる。
片方はレオにやってもらおう。
「承知した!」
ほぼ同時に地面を蹴る俺たち。
ひったくり犯は全力で逃げようとしているようだが、その足の速さは到底俺たちに及ばない。
「逃がさないよ」
最初にレオが追い付き、一人目に手を掛ける。
そして腕を掴んで背負い投げし、男の身体を石畳の地面に思い切り叩き付けた。
「ぐほぉッ!」
「なっ、なんだ!?」
「残るはお前だけだぞ、コソ泥」
「く、くそ!」
仲間がやられて焦ったのか、残りの一人は大通りから横道へと逃げていく。
路地にでも入ればこっちのもんだってか?
阿呆が。
見失うワケないだろ。
俺も素早く路地へと入ると、建物の壁と壁の間を跳躍して一気に距離を詰める。
鬼ごっこは、もう終わり――
「凍らせなさい――〔エスメラルダ〕」
しかし、俺が男に追い付く直前――。
強烈な冷気が、周囲を包んだ。
まるで俺たちのいる場所だけ、吹雪が襲ってきたかのような。
「な……ん……!?」
次の瞬間、目の前に”氷の精霊”が現れる。
全身が氷と霜で出来た、女性型のシルエットを持つ精霊。
間違いない、これは――”召喚魔法”だ。
「ぐお……!? か、身体が、動か……!?」
氷の精霊は、ひったくり犯の周りを舞うように浮遊。
すると彼の身体は見る間に凍り付いていき、瞬時に動けなくなった。
人体をこれほど早く凍らせるとは、凄まじい魔力である。
「――あら? スリだという声が聞こえたのだけれど……お邪魔だったかしら?」
遅れて、従者を引き連れた貴族らしき女性が現れる。
その姿を見て、俺は驚愕を隠せなかった。
「レティ……シア……?」
あまりにも――よく似ていた。
長く綺麗な白銀の髪、
雪のように真っ白な肌、
氷を彷彿とさせる青い瞳、
そっくりなのだ。
我が妻、レティシアの姿に。
ただよく見れば、レティシアより少し年長のように感じる。
大人びて見える、というか。
まるで数年後のレティシアの姿と言われても信じてしまえそうな――
「え、えっと……アンタ……」
「あなた、王立学園の生徒さん? ひったくり犯を追いかけてくれていたの?」
「ま、まあ一応……」
「殊勝なのね。民のために動くのは、とても良い心掛けです。立派だわ」
微笑を浮かべ、優しく褒めてくれるレティシア似の女性。
そこに、遅れてレオニールがやってくる。
「おーい、オードラン男爵! ひったくり犯は――って、あれ? レティシア夫人……? どうしてここに……?」
レオニールも彼女をレティシアと見間違えたらしく、困惑した様子を見せる。
そんな彼の発言を聞いて、今度はレティシア似の女性の方が驚いた顔をした。
「オードラン男爵、ですって……? あなたまさか、アルバン・オードラン男爵なの?」
「え? あ、ああ、そうだけど……」
「……」
何故か、表情が険しくなるレティシア似の女性。
彼女は少しの間だけ沈黙すると、
「……そう、あなたが……。
「妹……? じゃあまさか――」
「ええ、私の名前はオリヴィア・バロウ。レティシア・バロウは……私の妹よ」
――――――――――
初見の読者様も、よければ作品フォローと評価【☆☆☆】してね|ω`)
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何卒、当作品をよろしくお願い致しますm(_ _)m
※次話は明日の8:45に予約投稿済みです。
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