第34話 Fクラス VS Eクラス②
「そ、そ、そんなッ、馬鹿なぁ……ッ!」
ミケラルドは俺の目の前で地面に這いつくばり、苦しそうに息を荒げている。
どうやら魔力が底をついて、立ち上がることもままならないらしい。
――俺とミケラルドの魔法対決は、完全に一方的な展開で終了。
遠慮はいらないって言うから、Sランク魔法や混合魔法の中でも高威力なヤツをぶっ放しまくったのだが……ミケラルドは三分も持ち堪えられなかった。
あっという間に魔法防壁が剥がれ落ち、あと少しこちらの反応が遅れていたら誤って殺してしまうところだった。
まさに反撃すら許さない、圧倒的なまでの蹂躙。
あまりに呆気ない。
本当に口先だけの奴だったな。
「あ、ありえない……僕はカファロ侯爵家の血を引いているのに……!」
理解できない、納得できないといった様子で俺を睨みつけてくるミケラルド。
な~んか既視感あるな、この展開。
アレか、一番最初にイヴァンたちを叩きのめした時に似てるのか。
どうして高位階級の貴族って奴らは、こんなに自信過剰な奴ばっかりなのかねぇ。
「素晴らしいですアルバンくん! Eクラスは10ポイント減点、Fクラスに10ポイント差し上げましょう!」
「――ッ!? そ、そんな……!」
「? ポイントって?」
パウラ先生の発言に首を傾げる俺。
それに対し、ミケラルドは顔面を真っ青にする。
「あ、Fクラスの皆さんには説明していませんでしたね!」
てへ、うっかり♪と自分で頭を小突くパウラ先生。
ムカつく。
「これまでは”
「各クラス対抗、だって……?」
「はい! A~Fクラス全てに100ポイントずつ得点を振り分け、それを奪い合うんです! そしてポイントが0になった時点で、そのクラスは全員退学処分とします!」
「んな……っ!?」
ギョッとする俺たちFクラスのメンバー。
完全に初耳の情報である。
「そ、そういう大事なことはもっと早く言ってくれよ!?」
「ご安心ください! アルバンくんがいる限り、Fクラスは退学にならないと私は信じていますから!」
いや、そういう問題じゃない。
俺を信じてくれるのはありがたいが、職務怠慢は教師としてイカンだろって。
マジでこの人、教師向いてないんじゃないのか……?
俺が呆れて言葉を失っていると、レティシアが静かに手を上げる。
「先生、質問よろしくて?」
「はい、どうぞレティシアさん!」
「そのポイントというのは、どういった基準で加減される仕組みなのかしら?」
「よい質問です、ではご説明しましょう!」
ビシッと人差し指を突き立て、説明を始めるパウラ先生。
「ポイントの加点減点は、主に二つの状況に応じて行われます。まず一つ目は、”他クラスとの実力差を示した時”です!」
「それは、今みたいに他クラスの生徒を降した時――と解釈していいのよね」
「はい! 圧倒的な才能の差を見せつけてくれるほど、教師はポイントを加減しやすくなりますね!」
パウラ先生は人差し指に続き中指も突き立て、"二つ"のポーズを取る。
「ですが重要なのは二つ目……年五回、クラス対抗で行われる”試験戦争”の方ですよ!」
"試験戦争"――。
生徒にとっちゃ、試験って単語ほど怠さを感じるモノもない。
だが……そこに戦争って言葉が加わると、怠いなんて言ってられそうもない気配がするな。
「中間試験二回、期末試験二回、そして学年末試験一回……計五回の"試験戦争"では、各クラスの成績に応じて必ずポイントの加減が行われます! 試験では個人の能力は当然ながら、組織としてのチームワークも評価対象となります!」
「……なるほどね。各クラスの”
「ズバリ! ”
……99ポイントって。
それほとんど死刑宣告と変わらないだろ。
本当にこの学園は、面倒な仕組みを押し付けてくれるよ。
「それから、最後に――学年が上がる直前で最も所持ポイントが低かったクラスも、”落ちこぼれ”として強制退学となりますので……頑張ってくださいね!」
悪魔のような笑みを浮かべて、パウラ先生は言う。
学年が上がる直前――。
つまり、二年、三年に進級するタイミングってことだ。
それが意味するのは、この三年間で最低でも二つのクラスが確実に消えてなくなる、ということ。
ホント、エグすぎるよ。
まあもっとも……恐るるに足りず、だろうがな。
俺とレティシアがいるFクラスを蹴落とせるもんなら――蹴落としてみればいいさ。
「ですので、Eクラスは最初から出鼻を挫かれた形になっちゃいましたね! 残念!」
「う……うぅ……くそぉ……ッ!」
ミケラルドはギリッと歯軋りし、四つん這いの姿勢のまま校庭の土をジャリッと掴む。
彼からすれば、苦労して手にした王座に早くも泥を塗られた気分なのであろう。
「くそくそ、くそがッ! 男爵風情がこの僕をコケにして、タダで済むと思うなよ!」
まさに負け犬の遠吠え。
俺は応答する気にもならず、右耳から左耳へと聞き流してたが――
「お前らなんて、
――グシャッ
ミケラルドが言い切るよりも早く、奴の顔を靴底で踏み付けた。
「――死んだ方がよかった、ってか?」
「う……ご……っ!?」
「レティシアがあのまま死んでた方がよかったって、そう言いたいのか? あ?」
足の裏でグリグリと、その嫌味な顔を踏みにじってやる。
殺意と怒りを存分に込めて。
俺に対して恨みつらみを吐くのはどうでもいい。
だが今の発言は、あまりにもレティシアに対して無神経だ。
あの倉庫に捕まっている間、彼女がどれだけ怖い想いをしたか……お前にわかるか?
そしてどれだけ勇気を出して脱出のために行動したか、お前に想像できるか?
そんなことも考えずに、死んだ方がよかった、だって?
……こんなクズ野郎は、靴底の泥にまみれるのがお似合いだ。
「もし、もう一度似たようなことを言ってみろ。その時は……」
「ひっ……う……!」
「アルバン、よしなさいな。皆見てるわよ」
レティシアに言われ、俺は渋々ミケラルドの顔から靴底を離してやる。
すると彼女は俺の隣へとやって来て、
「……申し訳ないけれど、私は死んだりなんてしてあげない。だって、こんなにも私を大事にしてくれる旦那様がいるんですもの」
そう言って、俺の肩に寄り添ってくれた。
そんな俺たちを見たミケラルドは遂に心を折られたらしく、放心状態のままEクラスの仲間に連れられて校庭を去る。
結局この後、俺たちはニコニコ笑顔なパウラ先生の下で”魔法演習”の授業をこなしたのであった。
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